上写真=ブラジル戦に向けてトレーニングする小川航基と瀬古歩夢(写真◎青山知雄)
ブラジル戦の鍵を握る「前からか留まるか」の判断
前からいくか、それとも自陣に留まるか。
守備の局面での選択が、ブラジル戦の成否の鍵を握る。
これまで日本はハイプレスを磨いてきた。アジア勢との対戦ではその前輪駆動型のプレーが奏功し、最終予選も過去最速で突破した。
だが、FIFAランキング上位国と対戦した9月のアメリカ遠征では一筋縄ではいかない現実を知る。メキシコ戦の前半はハイプレスがはまり、主導権を握ることに成功したが、日本のやり方を把握し、変化した相手に後半は苦しめられた。
続くアメリカ戦は日本が代表歴の浅い選手をピッチに並べたこともあり、そもそもプレスがハマらず、武器は空転した。
そして先日のパラグアイ戦。相手はプレス回避の術に長けていた。ボランチが代わる代わる下がり、ロングボールも織り交ぜるビルドアップに、日本の守備が後手に回る。球際バトルでも上回ることができず、結局2失点を喫することになった。
立ち上がりに実施したハイプレスでハメきれないと判断した日本は、15分を過ぎたあたりから全体をコンパクトにしてブロックを組み上げた。しかし1失点目の場面では、そのことがマイナスに働いてしまう。
重心が下げた日本は1トップの小川航基も自陣に下がてブロックを形成。結果、センターサークル内でボールを持ったダミアン・ボバディジャにプレッシャーをかけられず、左サイドからライン裏に飛び出すミゲル・アルミロンへパスを通された。
「基本的には行けるタイミングで前からプレッシャーをかけて、相手がサイドバック、ウイングが後ろに下げたタイミングで、いいタイミングでプレッシャーをかけて、キーパーまで戻させるシーンは多々あったかなと思う。行けるタイミングで前からのプレッシャーという意味では前半は悪くなかったのかなと思います。でも失点シーンに関しては、相手の後ろにたくさん選手がいて、ディフェンダーが3人ぐらいいて、2ボランチもいる中で、僕がプレッシャーかけても、あれだけ人がいると(ボールを)はたかれるかなと。簡単にいなされるというところで、あんまりプレッシャーをかけ切れなかったというのが正直ありました」
ボールホルダーに一番近い位置にいた小川が、それでもプレッシャーをかけられなかったのは、自分より前に多くの選手がいたからだった。
「(自分よりも前に)5人いるってことは、間違いなく僕たちの陣地(=自分の後ろ)では、数的優位を作れている。大幅に作れているはずという認識だったので、ちょっとプレッシャーに行くのが遅れてしまった。ボールホルダーに対してフリーでやらせてしまったのは、ちチームとして、個人としてもスキがあったと思います。それと、あの場面で点と点で合わせてくるのが世界レベルで、そういう相手だったということ。そこはしっかりと、僕がボールを取るをところまで行くのは難しいですけど、フリーで蹴らせないことだったり、やれるべきところはあったんじゃないかなと反省はしています」
あの場面で、もう一つ注目しておくべきなのは、重心を下げたこととオフサイドを狙った瀬古歩夢の判断だ。ボールホルダーにプレッシャーがかかっていない状況でオフサイドを取りにいくのは、結果的に失点につながってもいるので判断ミスと言われても仕方がない。瀬古本人もその点は反省していたが、その上でなぜそういう判断をしたのか、試合後の説明は次の通りだった。
「背後に抜けてくるのはパラグアイ代表の特徴でもあったので、何回かオフサイドシーンを取れれば、相手もそういうのは、ちょっと嫌やなと思うはず。あのタイミングで(オフサイドに)かかったら自分たちが先手を取れると思いました。そこで相手との駆け引きをした。それが自分の決断でしたが、ああいう形にしてしまった」
「タイミング的に(ラインを)止めてもいけるという感覚があったので止めてしまったんですけど、セオリー的にはしっかり(アルミロンに)ついていかないといけなかった。そこに関してはもう自分個人の責任。今後、強豪国と戦っていく中で、ああいったミスで失点してしまったら、非常に悔やまれる」
小川にしても瀬古にしても、当然ながらあのプレーを選択した理由がある。結果的にはそれが外れてしまったわけだが、現在行なっているのは、あくまで来年6月に開幕するワールドカップ本番に向けた『テストマッチ』だ。重要なのは、因果関係をしっかり押さえた上で今後、同じ形の失点をしないことだろう。
「いい経験になったと今後言えるように修正していかないといけない」
瀬古はチーム全体だけではなく、選手間でもすでに失点原因について話し合っていると明かした。
14日に対戦するブラジルは、パラグアイ以上の試合巧者であり、強豪だ。前から積極的にプレッシャーをかけるにしても、ブロックを組んで守るにしても、実践するタイミングの見極めとその精度、そして選手間の意思統一が何より重要になる。
ミスの原因をしっかり把握し、糧として前進するチームは強い。日本も、その範疇にあることを願いたい。
取材◎佐藤景
