日本代表はヨーロッパ勢との2連戦を連勝で終えた。サッカー大国ドイツに敵地で4−1、EURO予選のグループDの2位につけるトルコには4−2。新体制になって取り組んできたことを9月シリーズで実践し、結果を得ることとなった。ここではドイツ戦の戦いぶりを改めて振り返りつつ、後半に採用した5バックについて考える。

上写真=サネの突破を抜群のスピードと守備技術で阻止する冨安健洋(写真◎Getty Images)

ボール支配率そのものだけでは意味がない

 カタールW杯におけるドイツ戦で24%、スペイン戦で17%とボール支配率の低かった日本は以降、その向上を一つのテーマとしてきた。3月シリーズでサイドバックが内側をとるプレーにトライしたのは、組み立ての局面でディフェンス陣のパスコースを増やし、相手のマークを外してボールをスムーズに前進させるためだ。

 強調しておきたいのは数値自体を議論してもあまり意味がない点だ。持たれるのではなく、日本が意図的に持たせるケースもあるわけで、当然ながら支配率の数値とともにプレー位置や状況を考慮する必要がある。今回のドイツ戦における日本のボール支配率は35%で、カタールW杯のドイツ戦24%からパーセンテージそのものは上がっている。ただ、その事実をもって成長したと称賛することも、逆に成長していないと切り捨てることもできないだろう。

 今回で言えば、シュート数は14対12で日本が上回る。しかも枠内に限れば、11対2と日本が大きくまさった。どちらが試合のペースを握っていたかは明らかだ。

 また、2−1とリードを奪って迎えた後半は、相手の右ウイングのレロイ・サネを抑えるために日本は5バックを採用している。前半はドイツの3トップ+2インサイドハーフの5枚対日本の4バックという構図になっており、冨安健洋いわく「90分はきついと感じていた」ための変更だった。

 実際、前半ドイツに許した1点は大外で一人余っていたサネにボールが渡り、日本の対応が間に合わずに決められたもの。それ以上の失点を避けるために修正したわけだが、5バックにすれば当然、後ろに人が割かれるため、チームの重心は低くなる。相手の攻撃を後方で受け止めるケースが増え、結果的にボール支配率も下がった。

 後半開始の時点で選択肢はいくつかあっただろう。一つは前半の4バックを継続し、前からのプレスを効かせて戦うやり方。そしてもう一つが、相手のストロングを消す策を講じていく戦い方だ。果たして日本はリードを保ちつつ、突き放すことも狙って後者を選んだ。

 この戦い方について、否定的に受け取る向きもある。後ろに重たくなった、腰の弾けた戦い方になったというのが、大方の見立てだろうか。しかしよくよく見てみれば、前半途中からドイツは守備の局面で4−4−2で構える日本の構造的な弱点を突き始めていた。2トップ脇をDFが持ち上がることでマークのズレを起こす狙いを何度も実践していた。

 実際、日本の失点場面は、このスペースを使われたことがきっかけになり、守備で後手に回っている。そうした状況を踏まえれば、日本には何らかの修正が必要だった。親善試合だから徹頭徹尾アグレッシブに戦えというのは、あまりに乱暴だろう。日本はリードを守り、リスクを管理しながら、スキあらばゴールを狙っていくセオリー通りの戦いを展開したに過ぎない。それは弱者どころか強者の振る舞いだった。

 W杯でベスト8に行くためには、前半の戦い方が必要であり、相手をいなしたり、かわしたりしつつ、耐える時間帯は耐えて時計の針を進めていく後半のような戦い方もまた必要だろう。それこそベスト8進出をかけてカタールW杯で戦ったクロアチアののらりくらりとした戦いぶりから、日本は老獪さを身につけるべきと指摘する声は多かった。カタールW杯時の対戦を考えればドイツ側には日本の5バックというトラウマがあったかもしれず、今回の5バック採用は日本側が先手を打ったようにも映る。

「ワールドカップの時とは違って守りに入るのではなく、本当に集中を切らさず、良い距離感でやっていた。役割がハッキリしていたし、5枚でも高いラインでキープしながら、プレッシャーをかけ続けられていたので、それは本当に良かったと思います」

 板倉滉には「やられない」感覚があったという。結果、日本は焦るドイツの攻撃を受け止め、1点も許すことなく、しかも2点を追加して4−1と大勝した。狙い通りの試合運びでリードを広げて勝ち切った事実を無視し、5バックそのものを否定的に語ることにはどうにも違和感を覚える。後半の守りが完璧だったとは言わないが、改善を求めるべきは5バックの採用ではない。

 5−4–1のブロックを組んだ後、日本の中盤の4枚がやや下がりすぎて、最終ラインに吸収されるケースが見られた。ギアを入れた相手との力関係もあるが、問題点を挙げるなら、中盤の選手がどのタイミングでプレスに行くのかがやや不明瞭になった瞬間があったことだ。特にサイドに展開された際にプレスの効きが甘く、その結果、全体が後退して守備をせざるを得なくなった。

 とはいえ、守備陣は「やれている」感覚を持ち続けていたという。そこはカタールW杯時との大きな違い。ボールの奪いどころの設定と共有という修正点については、すでに選手たち自身が認識しているところで、課題は課題として前向きにとらえ、さらなる成長を求めていた。

 サッカーには、さまざまな勝ち筋がある。カタールW杯に続く今回のドイツ戦の勝利は、リードを奪って懸命に守り抜いて得たものではない。リードを奪って保って突き放して、手にしたものだ。

 板倉と冨安健洋のセンターバックコンビ結成で、前半の日本はリスク承知で最終ラインをプッシュアップし、コンパクトネスを維持した。それを前提としてアグレッシブなプレスからショートカウンターを繰り出す戦い方は、大国を相手にしても効き目十分だった。そして後半に見せたように守ると決めたら守り切ることができる守備力もある。カタールW杯の成功体験は、現在のチームにもしっかり生かされていた。

「全てのアクションに対して、ボールの動かし方も含めて、相手がプレッシャー来ても全然ビビらずというか、相手がこう来たら逆にこうやって動かすよねというのはみんな頭の中に入っている。それはすごく大きいし、守備も含めて5枚でああやって守れば、そんなに簡単にはやれないよねっていう自信も持っている。目の前の相手に対して1対1で上回れるっていうのは多分、後ろの選手も含めて思っている」

 こう話したのはキャプテンの遠藤航だ。試合後、取材に応じた選手たちは誰もが自信に満ちていた。カタールW杯時、ドイツ戦の勝利には『歴史的』という修飾語がついた。あれから10カ月を経た今、ドイツに勝つことは『驚き』ではなくなっていた。

取材・文◎佐藤景


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