上写真=ドイツ戦に先発し、84分までプレーした三笘薫(写真◎Getty Images)
守備でも光った状況判断
快勝したドイツ戦から一夜明けた10日、三笘薫がリカバリートレーニング後に取材に応じた。
前夜の試合では相手が三笘を警戒し、2人で対応するようなケースも見られたが、それは三笘以外の日本の選手がフリーになっていることを意味した。相手の守備は想定内だったかと問われると「思ったより真ん中の選手だったり、プレスバックのところが早かったので、そこを見ながら、ある程度来ているなというところで味方を使うことを優先させましたけど、想定内ではあります、常に」と事もなげに言った。
大国ドイツにも注意を払われる存在の三笘だが、その状況を逆手に取れるのがまた、三笘のクレバーなところ。圧倒的なスキルとスピードだけはなく、ピッチ上の状況を瞬時に把握し、プレーを選択できる強みもある。
三笘の判断は、守備面でも大いに生きていた。日本は序盤、4−4−2でセットして守備を実行。相手の2CBに対して上田綺世と鎌田大地が制限をかけ、アンカーのエムレ・ジャンへの球出しを封じつつ圧力をかけた。するとドイツはGK+2CBで回してきたが、伊東純也がサイドバックへのコースを切りつつ、リュディガーに寄せ、たまらず逆サイドのズーレに回わしてきたところを、今度は三笘が狙った。
「チームとしてあそこに行けるときは行くというところと、行ってはがされるというよりは、中にプレーさせるところだったり下げさせるという意識はあったので。そこは自分のタスクでしたし、2枚を見ながらも人にいき、一つ後ろを捨ててでも行かないと、ボールを持たれて前回の試合(=カタールW杯時の対戦)のようになってしまうので、そこは一つ大きなところだったかなと思います」
特に前半は前への意識を示し、チームとしてカタールW杯時とは異なり『引かない戦い』を展開した。4−4−2で守りつつ、相手が右CBのズーレ、左CBのリュディガー、左サイドバックのシュロッターベックの3枚回しに変更すると、状況に応じて三笘はズーレにプレッシャーをかけて相手のビルドアップを封じていく。頻繁に内側にポジションをとるキミッヒへのパスも簡単には出させなかった。遠藤航も「チームとして助かった」と語った三笘のプレー選択だった。
「(上田)綺世が行ったときは僕もついていかないと無駄になってしまうので、そこは行っていました。もし自分がはがされても次もう一回行くというところは意識していましたし、相手のCBの位置によって、自分が行くか行かないかが決まってくるので。そこで(鎌田)大地君が前に行くかを見ながら、(前が)2枚で行くか3枚で行くかというところは後ろも連動してくれたかなと思いますね」
前半、日本のフロントラインによるプレスは効果的で、ドイツを大いに苦しめていた。その結果が、2−1で後半に折り返すことにつながったと言えるだろう。相手の変化を見極め、即座に対応する三笘たちの実行力は、森保一監督も現在のチームの強みとしてこれまでにも強調してきた。
後半、日本は5バックに変更し、3トップ+インサイドハーフの2人(ヴィルツ、ギュンドアン)で5トップ気味になる相手に対応していく。前半は4バックで対応していたが、構造的に1枚足りず、どうしても余った一人(多くの場合はサネ)に攻め手を与えてしまっていた。4バックでやり切る手もあったものの、「90分は難しかった」と冨安健洋や守田英正が振り返ったように、相手の圧力が増す中でサネの脅威も次第に大きくなっていた。果たして後半開始直後は三笘が下がってサネと対峙する5バックで対応することになった。
ただ、そのまま三笘が後ろで守備に従事するのではカタールW杯と同じだ。59分に投入された谷口彰悟が5バックの中央を務めるようになってから、三笘は2シャドーの位置に進出。ボール奪取後のカウンターの担い手として振る舞った。中盤のラインが相手にプレスをかけられず、5バックと重なってやや引き過ぎる場面もあったが、プッシュアップの意識を持ち続けたことで日本はドイツに加点を許さず、終盤に2点を追加して勝ち切ることに成功した。
その中で三笘はベンチに下がる84分まで、求められるいくつもの役割をこなしながら日本を攻守両面で支え続けた。
「前半からもうずっと、全然やれるなというところと、一人ひとりが相手をかわすじゃないですけど、自信を持って前を向いて判断しているところがありました。全然、互角以上にできるなというのを感じていました。最初からある程度、自信はありましたし、ゴールキックのところからも自分たちが意図的につくり出したところもあった。ミスもありましたけど、それによって前にスペースができたり、相手が前に来たぶん後ろにスペースができたり、うまく誘導できたかなと思います」
カタールW杯で得た自信を、チームとして今回の勝利でさらに大きなものとすることができたはずだ。親善試合とはいえ、ドイツにホームで大勝した意味はやはり大きい。しかも狙いを持って守備をして攻め筋を作り、実際にゴールを重ねてつかんだ結果だ。引いてカウンターを仕掛けるだけではない、成長した姿を敵地で満天下に示した。
日本は着実に成長している。そしてその中心部には、三笘がいる。