上写真=田中碧はブラジル戦は「自分のせいで負けた」と断罪する(写真◎JMPA小山真司)
「やってきたことをやろうとしてもできなかった」
田中碧にとって、股抜きされたことが屈辱だったかと言えば、そうではないという。理由ははっきりしている。
「股抜きが悔しい、というか、入れ替わられてゴール方向に行かれれば悔しいけど、逆に戻させていたのでそんなに気にしていません」
この一言だけで、田中がいかに冷静な判断力の持ち主か分かるだろう。一般的には、股抜きされればおちょくられたと感情的に反応してしまうところだが、自分にとって危険な方向に進まれていなければ問題ない、という基準がこの人らしい。
ホームゲームのテストマッチで世界ランク1位のサッカー王国に0-1で敗戦。この一戦における森保一監督や選手のリアクションは、本当にさまざまだ。田中はどうだろう。
「やってきたことをやろうとしてもできなかった、というのがシンプルな答えですね」
衝撃を受けていた。
「まだ言語化できないのが事実です」
一夜明けただけだから、無理もない。
「フィジカル、とか、スピード、というように抽象的な言葉で終わらせるのは簡単だけど、もっと細かくしなければいけないと思っています。フィジカルとかボールを保持する質と大まかには言えるけど、もっともっと細分化して消化しなければいけない。現時点ではまだそんなに整理はついていない感じがしますね」
さすが、考えるフットボーラーらしい向き合い方である。
「いますぐ言語化しようと思っているけれど、やっぱり簡単ではないと思います。ピッチでのこれからのプレーも照らし合わせて、明確な引き出しにしなければいけないですから」
少し考えて正解が出るほど生易しいものではない。自分のプレーがきっかけで失点したとなればなおさらだ。自陣右で堂安律に送った何気ない縦パス。堂安の得意な左足につけたのだが、そのすぐ横にはギリェルメ・アラーナがいたのだ。かっさらわれて前進され、最後は遠藤航がリシャルリソンを倒してPKを与え、77分にネイマールに決められた。
「僕自身は完敗だったというか、自分のせいで負けたと思いますし、積み上げてきたものがまったく通用しない、というか、出せないという表現につながってきます」
通用するかしないかの前に、出すことすら許されないという閉塞感。
「それぐらいの差があることはわかっていたけれど、でも、やってみて追いつける感覚もあるんです。試合で何かできたことがある、ということではなくて、これからサッカーを続けていく中で、彼らの舞台に追いつかなければいけないし、次に対峙したときに互角に戦える選手になる可能性はあるとも感じました。果てしなく遠いとは思いますけど、いい意味で唯一ポジティブなところを挙げるとすれば、そこかなと思います」
いつ、どんなふうに言語化して真っ向勝負できるのか。それを知るためには、田中がピッチに描く答えを探せばいい。