上写真=A代表の選手たちは試合開始から厳しいプレーでU-24代表と対峙した(写真◎Getty Images)
■2021年6月3日 代表親善試合(@札幌ドーム/リモートマッチ)
日本代表 3-0 U-24日本代表
得点:(日)橋本拳人、鎌田大地、浅野拓磨
兄と弟の強度の差は明らか
開始からわずか1分16秒で、ネットが揺れた。揺らしたのはA代表。U-24代表がまだ試合に入りきらないうちにゴールを奪ってしまった。右サイドから室屋がクロスを送り、南野が触って、ゴール前へ。そのボールをU-24代表の橋岡がクリアして、旗手が辛くもCKへと逃げた。
右CKを得たA代表は、いきなり好機を迎えた格好。鎌田が鋭いボールを入れると、ニアで大迫勇が頭で触って軌道を変え、橋本がフリーで飛び込んで決めた。この瞬間、U-24代表の選手たちは誰もマークに付けておらず。イメージを共有していたA代表の選手たちが先制に成功した。
状況を考えれば、A代表の選手にとっては調整試合の側面が強く、一方でU-24代表の選手たちは開幕まで50日を切った五輪本番に向けた最後の選考の場だ。先発にオーバーエイジがいなかったことからも当落線上にいる選手たちをテストする意味が強かったと思われる。
しかしながら、開始直後にアグレッシブにプレーしたのはA代表の方で、U-24代表は虚を突かれた形になった。1点を先制されたことでU-24代表もギアを上げたが、強度の面では明らかに差が見られた。
21分に田川がドリブルから狙うが枠をとらえられず、25分の板倉のミドルはDFに阻まれた。30分には自らドリブルで持ち込んで得た直接FKを久保が狙ったが、クロスバーの上へ。1点を追いかけるU-24代表が20分過ぎから35分にかけては攻勢に出た。
ただ、それでも要所を締めるA代表の牙城は崩せなかった。すると、A代表が再びゴールを生み出す。相手のパスミスに反応した橋本が前線へロングボールを送ると、南野がヘディングで鎌田につなぎ、鎌田はDFをかわして左足シュート。ゴール右下に決めた。
A代表は相手のミスを逃さず、複数人が連動してゴールを決め切った。抜け目のなさも連動性も決定力もU-24代表に大きく勝っていた。後半は互いに多くの選手を交代させ、トライの側面がより強くなっていったが、差は縮まらなかった。次の得点を手にしたのも、A代表の方だ。長友に代わって左サイドバックに入った小川が敵陣深い位置まで進入してクロスを送ると、浅野が飛び込む。シュートは一度はGK沖に阻まれたものの、こぼれ球にすぐさま反応して押し込み、リードを広げた。
終盤、U-24はOAの遠藤航を投入し、A代表の常連である堂安もピッチに送ってゴールを目指した。微妙な判定のたびにベンチ前に吉田が飛び出して抗議の姿勢を示し、チームを鼓舞したが、ゴールは遠いまま。ついぞネットを揺らすことはできなかった。結果は3-0。A代表の完勝に終わった。
試合後、この日はA代表の指揮を執った森保一監督は言った。
「今日のU-24のメンバーはオーバーエイジやA代表の常連組が出場時間が短ったですけど、逆にA代表の常連組の実力は、世界の舞台でよりインテンシティが高い戦いをできるとというのを、ある程度、把握できているので、そうではない選手たちがどれだけできるか把握する上で有意義な試合になりました。A代表の選手たちはスタートから激しく厳しく戦ってくれた中で、U-24の選手たちがどれくらい自分のプレーができるのか、個の力を見る最高の機会になりました。6月シリーズで、ガーナ戦とジャマイカ戦とやる中でまた確認できますし、横内監督から報告を聞いて成長を最後の選考につなげていきたいと思っています。
(今日時点の印象は?)試合の途中からある程度慣れてきたと思いますけど、すべてではないですけど、物足りない部分はあります。オリンピックでわれわれは金メダルを目指して戦っているという中で、今日の強度の中でしっかり自分のプレーを発揮できるぐらいでなければ目標達成は難しいと思いますし、目標を達成しようと思ったときには、この中でしっかりプレーできる選手でなければ、メンバーに入ってくるのは難しいと思います。ただ、若い選手は短期間で変わりますので、今回の活動期間で『俺は変わったぞ』というのを横内監督たちスタッフに見せてほしいですし、私も映像等々で確認したいと思います」
U-24代表の指揮官も兼任する森保監督は、今回の6月シリーズはA代表とU-24代表の活動が重なっているため、A代表に専念し、U-24代表は横内昭展監督がチームを見ることになっている。ジャマイカ戦の中止によって森保監督は同時に2チームを見る機会を得られたが、この日のU-24代表の選手たちの戦いぶりには、物足りなさを感じていた。
横内監督も同様の感想を持っていた。
「試合に慣れるまで少し時間がかかってしまいました。少し後手を踏んでしまった印象があります。A代表に関わっている選手もいるので、一人一人のクオリティーは持っている選手がいると思います。ただ、まだまだその中でもプレッシャーの中でプレーする部分では、A代表の選手たちの方が経験に勝る。今後、チームとして連係が深まればもっと個人のストロングの部分は出せると思いますが。対戦相手としてA代表とやることで、強度を見てみなかった。A代表のクオリティーと強度を体感してもらうには本当にいい機会だったと思います」
A代表の強度を身をもって知った選手たちが、短期間で成長することを願った叱咤激励。当の選手たちがどう受け止めるか。兄弟対決を経たことで生まれるであろう、弟の変化に期待したい。
取材◎佐藤 景