上写真=鈴木は73分間の印象的なプレーで日本のストライカー争いに名乗りを挙げた(写真◎Getty Images)
「本当に何十センチの世界ですけど」
背後を取る。アピールしてきた自分の持ち味が光ったのは、70分のことだ。
右サイドで室屋成から引き出した遠藤航が前を向く。その瞬間、最前線中央にいた鈴木武蔵は左手で裏のスペースを指し示して走り出すと、最高のクロスボールが入ってくる。トラップし、抜け出そうというところで最後はエリック・バイリーに巧みに体を入れられて守られてしまった。
「細かいことなんですけど、完全に入れ替わろうとトラップしたんですけど、相手の感覚が長けていたし、トラップの本当に何十センチの世界ですけど、もう少し極めていかないと」
右もものあたりで止めたボールが少しだけ後ろに入ってしまったのでほんの一瞬、スピードを緩めなければならなくなった。イングランドの名門、マンチェスター・ユナイテッドでプレーするバイリーはそれを見逃さない。鈴木とボールの間に体をねじ込まれてシュートをブロックされた。
「常に動き出しのところで相手に脅威になる場所に走ろうと意識していて、本当に何度かここに来ればというシーンもあったし、ゴールできなかったのは残念だけどフィーリングはいい感じだった」
「僕がなるべく引っ張って、(鎌田)大地が間で受けられるシーンが前半も後半も何本もあった。いい関係性ができていたと思います」
「前半は相手がクロスのところで油断していて、走り勝ったので、ここで合えばというシーンもあった。動き自体が悪いと感じていません。フォワードにとって大事なことは点が取れる場所に1試合通して入り続けること。そこは続けるしかないですし、ボールが来れば決めるという自信を持って入っていきたい」
73分間のプレーで、大きな自信を手にしたようだ。
この夏、ベルギーのベールスホットに移籍して初めての日本代表入り。意識の変化は自分自身が強烈に感じているところだ。
「いままでは代表に来ても下手に出ていたんですけど、海外で一人でやっていく中で所属チームでなかなか認めてもらえない時期もあったので、今回も自分を前面に出さないと消えるなと思っていました。練習でもどんどんアピールしていきたかったし、試合になったらゴールだけを求めていました」
「海外に来てよりハングリーになれたと思います。大迫(勇也)選手にいま勝てなくても、いずれ自分が一番だと証明してやるという強い気持ちは、今回代表に来てすごくありますね」
開始早々の2分にいきなり右サイドに出てマイナスの折り返しで久保建英のシュートを導いた。32分にはポストプレーから柴崎岳を右深くに潜り込ませた。1分後には久保のセンタリングに合わせようとニアに猛ダッシュしていった。66分にも左サイドからの中山雄太の折り返しに同じようにニアに突っ込んでいった。要所でゴールの匂いのするところに顔を出した。
大迫という絶対的な存在に挑むために、自分は自分だと念じて、持ち味を存分に生かしてインパクトを残した。「またさらに、周りから成長したねと言ってもらえるように頑張っていきたいと思います」。新たな競争に胸を躍らせている。