欧州組を組み込んだ日本代表の試合は、昨年11月以来、ほぼ1年ぶりだった。史上初めて海外組のみで臨んだ今回のカメルーン戦で、森保一監督は何を試し、何を得たのか? 

上写真=ハイボールを競り合う冨安(写真◎Getty Images)

■2020年10月9日 国際親善試合(リモートマッチ/@オランダ・ハルヘンワール)
日本 0-0 カメルーン

画像: ■2020年10月9日 国際親善試合(リモートマッチ/@オランダ・ハルヘンワール) 日本 0-0 カメルーン

準備していた形をトライした

 2020年初となる試合に臨んだ日本は、開始からアグレッシブな姿勢をみせた。南野が勢いよく相手のボールホルダーに走り出したシーンは象徴的だった。カメルーンの陣形4-3-3に対し、日本は4ー2-3-1を採用。高い位置からプレッシャーをかけ、縦横の圧縮でボールを奪う守備を実践した。
 
 ただ、ほどなくしてプレスが空転するようになる。カメルーンはビルドアップの局面で2CBとボランチでうまく対応してボールの逃がしどころをつくり出し、逆サイドに展開して日本のブロックを崩しにかかった。14分には左サイド深く進入され、トコ・エカンビのクロスからエンガマルのヘディングシュートを許す。相手のミスに助けられたて事なきを得たが、日本にとっては危険なシーンだった。

 日本も19分、22分と南野がシュートを放つも得点には至らず。狙いである前向きの守備からゴールを目指す形はなかなか繰り出せず、前半は相手にペースを握られることになった。そこで後半、森保一監督は状況改善のために手を打った。4バックから3バックに陣形を変更したのだ。

 左サイドバックの安西に変えて伊東を投入し、並びを3-4-2-1に変えた。酒井、吉田、冨安の3バック、伊東と原口の両ウイングバック、中山、柴崎のドイスボランチ、堂安、南野の2シャドー、大迫の1トップが、その配置だ。0-0で試合が推移していたこともあるが、このシステムの胆である両ウイングバックには攻撃マインドの強い選手を据えた。

 その狙いについて森保一監督は「攻撃の部分で言えば、ウイングバックの選手がワイドなポジションを取ることで、4バックの相手に対して守備の対応を難しくさせ、われわれがサイドでスペースを得て突破することを考えました。かつ、ワイドにポジションを取る選手がいることで、中の1トップ2シャドーの選手が相手の混乱の中で起点になり、攻撃を仕掛けられると思った」と説明した。

後半、右ウイングバックの伊東の突破が光る

画像: 後半から登場し、圧倒的なスピードで右サイドを活性化させた伊東純也(写真◎Getty Images)

後半から登場し、圧倒的なスピードで右サイドを活性化させた伊東純也(写真◎Getty Images)

 事実、後半の日本はサイド攻撃を活性化させた。49分には右ウイングバックに入った伊東が相手のキックミスに反応。右サイドを深く進入し、大迫のヘディングシュートにつなげた。相手の最終ラインを横に広げ、中央で3人(1トップ2シャドー)が数的優位な状況を利用する狙いも、数こそ限られたが見て取れた。

 また、守備面でも「相手の右サイドバックの2番と左サイドバックの6番の選手が、前半かなり高い位置に来て、我々の守備の対応が難しくなっていた中で、3バックにして役割をはっきりさせることによって、相手の攻撃をうまく止めれるようになったと思います」と森保監督が説明した通り、前半に比べて安定感が増した。

 前半は左サイドバックの安西の裏を頻繁に使われたが、後半は伊東と原口が監視を強め、同時に高い位置を取ることで相手の攻め上がりを抑制。必要とあらばこの両ウイングバックが下がり、スペースを埋めることで危険を未然に防いだ。

「この短い準備期間の中で4バックも3バックも、1年ぶりにやるということは、そんなに簡単なことではない。ですが、練習のときから自分たちのレベルアップのために、チームとして戦術の幅を広げるためにトライしようということで非常にポジティブに選手たちがやってくれて、それを今日の試合の中でもいろんなことをすり合わせながらやってくれたと思います」

 広島時代にJリーグのタイトルを3度取った森保監督は、いずれも3-4-2-1で戦い、栄冠をつかんでいる。最も得意とするのが、この形だ。ただ、その時とは並びこそ同じだが、運用が異なっている。当時は守備の局面で最終ラインを3バック+両ウイングバックの5人で形成し、その前に2ボランチ+2シャドーによる4人のラインを敷いて5-4のブロックをセットするのが基本だった。しかし、日本代表ではボールを失ったあと、まずは即時奪回を狙う。当時のような帰陣とブロック形成をベースにしたスタイルでは戦ってはいない。

 攻撃面もまた、広島時代とは異なる。ビルドアップの際に2ボランチの1人が最終ラインに落ちると同時に左右のCBが外に開き、サイドバックとなって、両ウイングバックをより高い位置に押し出す4-1-5の『可変』は実装されていない。それについては、「連係不足で、うまくいかなくなるのはある程度あり得るかなと準備していました」と指揮官も話したように、1年ぶりの試合であるためだったのか。それとも代表ではまったく別の運用方法を考えているのか。今後の試合も見てみないと判断できないものの、試合中に陣形を変えたり、スタイルを変える柔軟性や対応力については「世界で戦うために絶対に必要な要素」と指揮官は繰り返し話している。今回の3バック採用にも、その意図があるのは間違いないだろう。試合後に吉田キャプテンが明かした。

「3バックに関してはずっと監督もやりたいという話をされていましたし、試合前に試そうと思うという話もしていたので準備はしていました。久しぶりの代表ということもあって、良かった点もたくさんあったと思いますけど、もっともっとすり合わせなければいけないところもたくさんあったと思います」

 あらかじめ準備し、「試合の流れを見て後半から3バックを採用した」と森保監督も話した。久々の代表戦でトライしたことからも、柔軟性の獲得を強化の大きなポイントにしていることが分かる。実際、この試合に限っては形を変えた後半の方が、いいプレーができていた。

「ワイドのポジションから相手を崩すという点では(伊東)純也が持っている攻撃力を生かしてもらえればなと思っていました。サイドを突破してチャンスメークというところでは狙い通りの形は出ていたと思います。ただし得点には至らなかったですし、もっとチャンスを作れる場面があったと思うので、(3バックの)優位性は選手の感覚として持ってもらいながら、さらにクオリティーを上げられるようにしたいと思います」

 試合は結局、スコアレスドローで終わった。それでも日本にとって11カ月ぶりの代表戦は強化試合として大きな意味があった。運用方法にはまだまだ改善の余地があるものの、強い相手とこれまであまり試してこなかった3バックで戦い、選手がその優位性を体感できたのは何よりの収穫だった。次戦は4日後のコートジボワール戦。今回と同様に3バックを試すどうかは分からないが、世界ではすでに常識である多様性や柔軟性、戦術的な幅を手にすべく、森保ジャパンは今後も強化を進めていく。


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