上写真=PKを止めてチームの勝利に貢献した沖悠哉(写真◎J.LEAGUE)
■2021年3月3日 YBCルヴァンカップ第1節(@カシマ/観衆3,784人)
鹿島 3-0 鳥栖
得点:(鹿)エヴェラウド、和泉竜司、染野唯月
「自分1人だけの力ではなくて、みんなの力」
前半10分にエヴェラウドのゴールで幸先よく先制したものの、後半早々に試練が訪れた。キックオフからわずか45秒後、和泉竜司が自陣のペナルティーエリア内で相手選手を倒し、PKを献上した。
「この前のJリーグの試合と同様に気を引き締めようという思いが強くなりすぎて、竜司くんのあのプレーになってしまったのかな」
チームを最後尾で見ている沖悠哉は、そのようにファウルの場面を振り返った。4日前のJ1開幕戦では先制点を挙げながらも逆転負けを喫しただけに、同じ轍を踏まないように激しく守備に行ったことが裏目に出たのかもしれない。ただ、次の瞬間に会場中の視線を浴びることになる21歳のGKは冷静だった。
「昨年からJリーグの試合に出させてもらっていますが、PKを止める機会もなかったので、ここは自分が(チームを)助ける番だと強い気持ちを持って臨むことができました」
対峙するキッカーは、百戦錬磨のストライカー、豊田陽平。鳥栖の背番号11が右足を強振した瞬間に、重心を落として自身の右方向へ両手を伸ばした。
「自分が思い切って飛んだ方向にボールが来てくれたので良かった」
豊田のシュートを両手で弾き飛ばし、そして自然と右手の拳がつき上がった。
「試合の中でガッツポーズすることはなかなかないんですけれど、それくらい自分の中では大きな意味のあるセーブだったと思います」
チームは結果的に3-0で快勝した。ただ、もしもこのPKの場面で鳥栖に1点が入っていたら、スコアだけでなく勝敗すらも違ったものとなっていたかもしれない。それだけに、「チームを勝たせるキーパーになりたい」と日々鍛錬を重ねる沖が手繰り寄せた勝利とも言えるだろう。
それでも、常勝チームの守護神に浮かれた様子は一切ない。
「あのシーンだけを見れば、自分をピックアップされがちです。でも、それまでにうまく時間を使ってくれたチームメイトだったり、いろいろな要因が重なってのPKストップです。自分1人だけの力ではなくて、みんなの力かなと思います」
PKだろうと、違った形からのシュートだろうと、それをひたすらに止め続ける。そんなタスクを黙々とこなし続けて、勝利を告げるホイッスルが鳴ったときに、初めて肩をなでおろす。そんな沖の凛々しい姿が、常に勝利を追い求める鹿島を支えている。
取材◎サッカーマガジン編集部 写真◎J.LEAGUE