上写真=チョウ・キジェ監督の思想がチームに染み渡る沖縄キャンプになった(写真提供◎京都サンガF.C.)
人間万事塞翁が馬
空気を読む、というフレーズがあまり良くない意味合いで使われることが増えた。だが、その空気がポジティブなものだったら? いま、京都サンガF.C.に充満しているその「空気」は最高に前向きだ。
2月8日に最終日を迎えた沖縄キャンプで、対外試合は3試合。沖縄SVに7-2、北海道コンサドーレ札幌に3−3、そしてFC東京に6-2だった。試合時間や本数、相手とのコンディションの違いなどもあるが、2勝1分け、得点16、失点7というスコアは上々だ。
しかも、チョウ・キジェ監督の見立てによれば、内容そのものも自信につながるものだった。
「(FC東京戦は)札幌戦よりも自分たちで仕掛けていく場面を出せました。立ち上がりの入りはエネルギーのある試合ができて、その時間を長くしていくことが大事だと再確認できました」
「課題はその中でも相手のチームにエネルギーを与えるようなプレーがいくつかあったこと。ただ、決めるところで決めないと、という月並なことは言いたくなくて、チャンスが多くても1点しか入らなければそれは1点でしかありませんが、でも、チャンスを多く作ることはネガティブではありません。スキのない戦いをするという点で課題は残りましたが、いい戦いができたと内心は思っています」
チャンスを多くつくる、という部分では、ゴールの可能性を高めるという確率の問題に加えて、チーム全体を高みに押し上げるための「空気」としての重要性があると指摘する。
「サッカーに正解があればみんなやるのでそれ自体は100パーセント勝てる方法ではないと思いますが、ゴールが取れたか取れなかったかというよりも、取れそうだと選手が感じていることが大事なんです。試合を進めながらゴールが取れそうもないと思ってプレーするのと、取れそうだと思ってプレーするのはすべての面で勢いが2割増し、3割増しになっていくと思っています。結果的にゴールを決めたことよりも、そういう空気でプレーする時間が長かったのは、いまの京都の選手に自信をもたらすのです」
空気が自信を生み、自信が勢いを増し、勢いがゴールにつながる、という正のサイクル。
「ミーティングで『人間万事塞翁が馬』の話をしましたが、いいと思っているときに落とし穴があるし、へこんでいるときにこそチャンスがある。それをみんなが感じなければいけないんです。サッカーの試合で90分というデザインの中ではそういう時間は必ずあるはずで、いいと思っているときこそ細心の注意を払い、押されているときほど一つのチャンスを奪いにいくタフなチームにならないと、J2という厳しいリーグを乗り越えていけないと思っています。(練習試合で)得点を取れたのはよかったけれど、取れそうな空気で長い時間プレーしていくことはいまの京都にとって悪い状況ではないんです」
沖縄キャンプでチョウ監督が伝えてきた思想は、選手たちに染み込んでいる。誰もがその熱情に触れ、意欲をあふれさせ、チームが勝つために何をすべきかを模索し、そしてとにかく走っていると口々に語るのだ。
2月8日に厳しいキャンプが終わった。2月28日、アウェーののSC相模原戦で開幕だ。
「開幕まであと何日、という考えは、僕の中にも選手にもありません。毎日の積み重ねが大事で、開幕戦に勝てば勝ち点15をもらえるというのならフォーカスしますが、(練習グラウンドがある)サンガタウンの毎日の競争に勝ってスタジアムに立つ、という意識を貫いていきます。だから、明日の練習に集中したい」
選手も監督も、日々決戦、である。