上写真=理想の監督像に言及した長谷部茂利監督。一歩ずつ近づいている(写真◎スクリーンショット)
逆算の結果の「勝ち点81」へあと3
ついに、王手。J2第41節でアビスパ福岡が愛媛FCに勝ち、V・ファーレン長崎がヴァンフォーレ甲府に引き分け以下に終わったら、その瞬間に福岡のJ1昇格が決定する。
監督としての究極の理想像を追い求めて、長谷部茂利が福岡を昇格に導こうとしている。
「いい監督とはなんぞや、というのは自分の中でははっきりしていて、勝ち点を取れる監督がいい監督だと思っています。勝ち点を取ることでクラブがいい方向に行く、チームが昇格する、上位に行く、いろんなことがうまく回っていくわけです。勝てばいいんです、というような言い方に聞こえてしまうかもしれないけれど、でも勝つには勝ち方があり、勝つには理由があり、勝利にはいろんなものがあります。だから、勝ち点を取れる監督、あの人が来れば勝ち点を取れるよねと言われるようになりたいです」
水戸ホーリーホックから福岡に来て、そんな風に言われるようになってきた。九州の雄を率いて1年目で上位を争い、一時は12連勝も記録するなど、残り2試合のところまで来て2位だ。連勝すれば自力で昇格を決めることができる。
「ここまでもつれるとは思っていませんでしたが、そもそもこういう戦いになるのは自然のことです。プレーオフのある年は7位、8位ぐらいまでの幅で争いはあったわけですから、びっくりすることはないです」
争いの渦中にいても物静かだ。ここまで来て大将がじたばたしてもいいことはないからだろうが、もう一つ、第40節の京都サンガFC戦でのパフォーマンスに自信を得たことも大きいだろう。
「全体のところで言うと、準備がしっかりできて選手たちがやりたいことを発揮してくれました」
まず選手たちを称えたが、守備で相手をはめ込んでショートカウンターを繰り返す理想的な戦いだったことは選手たちも口にしていて、2-0の完勝を手に入れた。中でも長谷部監督が強調したのが、前半終了目前の45分のワンシーンだ。
「取る、取られる、というゴール前のことで言うと、前半のピーター・ウタカ選手のシュートの場面で、くつ1個分、いつもよりも寄せた上島のプレーですね。もしシュートが枠に入っていてもジョン(セランテス)が防いでいただろう動き、あの際(きわ)のプレーが光っていたと思います。あれが失点につながっていたら、ゲームの展開はまったく違ったことになったでしょう。あれがあったからこそ、後半の2得点につながったと思います」
福岡の右から左にきれいにボールをつながれてセンタリング、それをウタカが右足で押し込もうとするところに上島拓巳が右足を伸ばしてコースを消して、シュートミスを誘った。ウタカが前に突っ込みながらステップを変えて後ろに戻ったスペースの作り方はさすがのテクニックだったが、一度は離された上島も体を投げ出した。
「小さいこと、少ないことを高めることによって、勝ちの方に傾いていく。細部に宿る、と言いますが、心の持ちようや姿勢、プレーの一つ一つについて事あるごとに選手に伝えています」
上島の「くつ1個分」はまさに「小さいこと、少ないこと」で、残り2試合ではその重要性がどんどん大きくなっていく。
「昇格するために、という逆算でスタートしました。そのためには勝ち点が必要で、いくつだったら2位以内に入れるのか。そこで『81』が計算した数字でした。そこに何試合で何点取っていかないといけないか。もちろん、数字と戦っているわけではありませんし、ボールをゴールに入れる内容についてはもっと具体的な話ですけど、昇格のためには数字がいくつ必要かを計算して、最後に81という数字を出しているんです」
40試合を終えた段階で、勝ち点は78。あと1勝でまさに81だ。運命の愛媛戦は、もうすぐそこに迫っている。