上写真=齋藤功佑(右)と井手口陽介のバトル。どちらも譲らずにドロー決着に(写真◎J.LEAGUE)
■2024年11月10日 J1第36節(観衆21,709人/@味スタ)
東京V 1-1 神戸
得点:(東)オウンゴール
(神)山川哲史
それぞれの収穫
首位のヴィッセル神戸は7分に山川哲史のゴールで先制してから、4-4-2システムで組んだブロックをより強固にした。この日は中盤の底に2人を並べていて、そこで扇原貴宏とともに堅陣を築いたのは井手口陽介だ。
「いつも通りですね。特に話をすることもなく、ポケットに流れてくる選手が必ずいるので、そこを意識していたぐらいで」
扇原との役割分担には変更を加える必要がなかった。その様子を、東京ヴェルディのボランチとしてゲームをコントロールする森田晃樹は、こう見ていた。
「結構難しくて、ブロックも堅いし、裏に入ったときにもプレスバックが早くて」
こうして神戸が1点のリードをうまく利用して時間を使い、東京Vがさまざまにボールを動かして穴を探りながらも崩せない時間が続いた。神戸がボールを持たずとも主導権を握る展開にも見えた。ただ、井手口の感触は少し違った。
「90分間を通して耐える時間が長くて、最後まで耐えられればよかったですけど…」
後手に回った感覚をそう表現した。だが逆に、森田も攻めあぐねていた。
「前半は僕とか齋藤(功佑)選手、見木(友哉)選手のところでリズムを作りながら攻撃できていたんですけど、後半は相手がプレスの仕方を変えてきて、その3枚に対してタイトについてくるような感じになって、ロングボールが増えて行ったり来たりの展開になったと思います」
つまり、どちらもすっきりしないままのこう着状態だった。ボールを刈り取りながら前進するのが井手口の特徴だが、そこにスムーズさを欠いたという反省もある。
「そこから攻撃につなげていければよかったんですけど、まずはボールを取る位置がちょっと低すぎたのかなと。もう少し高い位置で取れれば、ショートカウンターができたし中盤の選手ももっと押し上げられた。でも、それができずにフォワードに孤立させてしまう時間が長くなってしまって」
低すぎた、ということは、東京Vがより攻勢を強めて押し込んだ証拠である。特に後半、選手交代の効果を森田は実感していた。中でも、後半開始から山見大登、75分に染野唯月、85分に松村優太とアタッカーが加わり、最後は前線に木村勇大と染野を並べ、右に松村、左に山見を配置してゴールへの圧力を強めた。
「神戸を崩すのは難しくて、でもそこで選手交代でドリブルからクロスやシュートのチャンスを作れる選手が入ったことによってそういうシーンも増えました。それが結果的にゴールにつながったと思ってます」
90+1分、左から山見が浮き球のパスをゴール前に差し込むと、神戸のセンターバック、マテウス・トゥーレルがクリアしようと伸ばした足に当たってゴールへと吸い込まれていった。土壇場の同点弾はゴールへの矢印を太く、強くしたことで生まれた。
終盤に目まぐるしく選手と立ち位置を変えるとチームの軸を壊しがちだが、そうならなかったのは、齋藤と森田のボランチが安定したからだ。
「僕たちのところでコントロールするのは心がけていて、交代策などで状況は変化しますけど、それによって僕たちも立ち位置やプレーの選択は中盤でしっかり変えられると思っています」
神戸からすれば、早い時間で先制したことによって東京Vの攻撃に対して受けに回り、前への推進力をもぎ取られたことになったのは皮肉だった。ただ、井手口には改善の糸口は見つかっている。
「ボールを持ったときに一発の単調な攻撃だけではなくて、相手陣地で押し込む時間を増やせればもっと楽な展開になったと思います。後半からも守りにいくんじゃなくて、自分たちで攻めに出ようという話はしていました」
この試合に限って言えば、押し込もうとする意欲を表現できたかどうかが両者の決定的な違いだったかもしれない。東京Vにとっては、J1昇格の年に、前年王者で連覇を射程距離内に入れている神戸に対して一歩も引かずにドローに持ち込んだ意味は大きい。
「自分たちも成長してると思います。今日のようなゲームを神戸さんを相手にできたのは、チームとしても自信になるし、収穫の多かったゲームだと思います」
神戸は勝利を逃して勝ち点2を失ったものの、その後に2位のサンフレッチェ広島が敗れたために、優勝へ向けて勝ち点1を手にして勝ち点差を3に広げたたというポジティブな考え方もある。東京Vは王者と戦い抜くことのできる自信を手にした。
それぞれ確かな重みのあるものを手に入れて、残り2試合に向かっていくことになる。