上写真=町田戦を終え、会見でコメントする札幌のミシャことペトロヴィッチ監督(写真◎J.LEAGUE)
ロングスローを多用し、セットプレーで強さを発揮
「過去にプレミアリーグでストーク・シティというクラブがありましたが、そのチームは小さい選手でも身長が180センチ後半で、高さのある選手をそろえ、それを生かす戦い方をした。ロングスローも多用し、セットプレーでも強さを発揮した。観客の方々はロングスロー、あるいはセットプレーがあると得点の匂いがして湧いたものだが、町田はすごくそれに似ていると感じます」
まるであの頃のストーク・シティ。それが、ミシャ監督のFC町田ゼルビア評だった。
シンプルだがオーガナイズされた攻撃は、わかっていても止められない。指揮官が引き合いに出したストーク・シティも、そんなチームだった。
2008ー09シーズンにプレミアリーグに初昇格したとき、多くの人がその戦いぶりに驚いた。チームには人間発射台と言われたロングスローの担い手ロリー・デラップがいて、身長191センチのFWデイブ・キットソンとリカルド・フラーがいて、193センチのママディ・シディベもいた。
さらに中盤やDFにも185センチ以上の選手がゴロゴロいて、トニー・ピューリス監督が積極的に採用したロングボール戦術が猛威を振るった。
のちに身長202センチのFWピーター・クラウチも獲得するが、イングランド伝統のキック・アンド・ラッシュを地で行くチームが、一時期のストーク・シティだった。
ミシャ監督は、そんなチームに町田をなぞらえたわけだ。
「町田との戦いは非常に難しいゲームになると思っていましたが、思った通り難しかった。町田は非常に特殊な、オーガナイズされたサッカーをするチーム。高さのある選手が多く、そこをターゲットにロングボールを入れてきて、そこからセカンドボールを回収して、シュート、クロス、あるいはロングスロー、コーナーキック、フリーキックを狙う。非常にオーガナイズされたセットプレーは、分かってはいてもなかなか防ぎきれないことが多い。そして、そういうシチュエーションを意図的に作り出す」
首位チームの特徴を指摘しつつ、相手としていかに厄介であるかを説明した。雰囲気も含めて、町田とのアウェーゲームは非常に難しかったと振り返った。そしてーー。
「個人的な好みとしては、ロングスローをペナルティーエリアに入れてはいけないとか、あるいはセットプレーでペナルティーエリアに放り込んではいけないと、そういうルールがあれば、私は『良いな』というふうに思うタイプです(笑)。そういうルールがあったら、もしかしたらよりボールをつながなければいけないような、そういうサッカーに変わっていかなければいけないかもしれない」
苦しめられた戦法を称えつつ、指揮官は渡り合った自分たちのスタイルについて自負も口にした。ポゼッションは札幌が59%と上回り、パス総本数も540本対371本で大きくまさっている。
ただし、シュート総数は7対7と互角で、枠内シュート数も2対2と同数に終わった。果たして試合は、引き分けで決着した。
「町田は規律のある、非常にプロフェッショナルな戦いをするチーム。与えられた役割を全員が規律をもって遂行する。そういう相手に対して、(札幌の選手は)よく戦ったと思います。特に右サイドを22番(=藤本一輝)の選手に突破されて危険なシーンが何回かありましたが、それでも選手たちは体を張ってゴールを割らせなかった。そして自分たちのボールを持つ時間を作り、意図的に相手を崩して得点を狙う場面やボールを奪って早く攻める場面も作りながら、町田のゴールに迫ることもできた。非常に厳しいゲームでしたが、我々らしい戦い方ができたのではないかと思う」
首位チームとアウェーで引き分けたことは、19位の札幌からすれば確かにポジティブにとらえられる。ただ一方で指揮官は「今の我々の状況から考えれば勝利が欲しいゲームでした」と現実も受け止めていた。
「他会場の結果を見れば、磐田と柏、残留を争うチームが引き分けに終わっている。ポイント差は開かなかったが、詰めることもできなかった。下にいるわれわれからすれば、(試合数が減っていく中で)順位を入れ替えるチャンスも少なくなっていく。厳しい状況に追い込まれたことに変わりはない」
残留可能な17位の湘南との勝ち点差は現時点で6ポイント、16位の柏とは8ポイントある。22日に湘南がC大阪に勝てば、その差は9に開き、柏は消化試合は札幌より1試合少ない状況だ。残りは7試合。札幌は今後も一戦必勝の戦いが続く。
ちなみに2008ー09シーズンのプレミアリーグを制したのはマンチェスター・ユナイテッドだった。UEFAチャンピオンズリーグは決勝でバルセロナに敗れたが、リーグカップ制覇とプレミアリーグ3連覇を達成。
そしてストーク・シティは12位でフィニッシュ。スタイルこそ町田に似ていたかもしれないが、その成績は、シーズン終盤に来て依然として優勝争いを続ける町田とは大きく異なっている。
取材◎佐藤景