11月12日のJ1第32節、浦和レッズは試合終了間際に失点し、ヴィッセル神戸に敗れた。なぜあのとき、GK西川周作は相手ゴール前に攻め上がったのか。そこにはただ勝利への強い意欲のみがあった。

上写真=敗戦を引きずることなく、残り2試合に集中すると試合後に語った西川周作(写真◎J.LEAGUE)

最少失点の可能性も

 アディショナルタイムに突入して90+1分に同点に追い付いた浦和レッズは、その5分後に右サイドでFKを得ると、GK西川周作も攻め上がって逆転ゴールを狙いペナルティーエリア内に構えた。

 中島翔哉の上げたボールは西川に向かって飛んだが、いち早く飛び出したヴィッセル神戸のGK前川黛也の両手に収まり、素早くキックされて浦和のエンドで待ち構えていた大迫勇也に渡った。次の瞬間、確実にコントロールした神戸のエースによるほぼ40メートルのシュートが無人のゴールに決まった。1-2と再び神戸がリードを奪い、浦和の優勝への可能性が潰えた。

 引き分けでも優勝の可能性がなくなるため、リスク承知のプレーだったが、結果には繋がらなかった。試合後、西川は時折、笑みさえ浮かべて「僕の判断で上がりました。勝ちたかった、引き分けでは意味がないので。失点につながってしまったが、チームとして共有していたことなので勝ちにいきました。自分が上がったことで相手も混乱していたし、行ったことに後悔はありません」ときっぱり話した。

 もちろん、悔しさ、責任はだれよりも強く感じているはずで、気持ちを押し殺していたのに違いない。あえて割り切った雰囲気を見せたのは「あとは切り替えて、3位を死守するということ」を示したかったからだろう。チームのリーダーが敗戦を引きずるような姿を見せればチームのムードは沈下する。

 今季の西川の活躍は改めて記すまでもなく、この日の2点を加えてもリーグ最少の24失点はアレクサンダー・ショルツ、マリウス・ホイブラーテンのCBコンビと築いた中央の守備の堅さと安定感によるもの。この日も押し込まれた前半には的確なポジショニングと予測で相手のシュートを阻み、クロスにも的確な判断でキャッチ、パンチングを使い分けていた。先制を許したシーンは左右に何度も振られて最後は防ぎようのないヘディングシュートだった。

 昨季から就任したジョアン・ミレッGKコーチの指導もあり、30代も後半を迎えてさらに成長していることは誰もが認めるところ。キャリア最高のプレーと安定感を見せていると言っていい。現時点でJリーグ最高のGKであり、現在のパフォーマンスを維持できるなら日本代表に復帰させるべきではないかとの声も聞かれる。特に現代表のGK陣は経験の少ない若手が多い。最も経験が必要なポジションだけに一考の余地はあるだろう。しかし、この試合では現役代表の前川に自らの眼前でキャッチされたボールから決勝ゴールにつなげるプレーを見せつけられた。これも西川にとって発奮材料となるはずだ。

 この日の敗戦は今季のリーグで6敗目だが、その6試合はすべて2失点しており、3点を失った試合はない。得点力の不足は問題だが、残り2試合を無失点で終えることができれば3位に入る可能性は高まる。またJ1での年間24失点は2008年の大分トリニータに並んで最少記録となる。この大分の記録も西川が在籍時に残したもので、レッズでも達成できれば異なる2チームで最少失点を記録することになり、歴史に残る大記録と言える。

取材◎国吉好弘


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