8月26日の明治安田生命J1リーグ第25節、横浜ダービーは横浜FCが横浜F・マリノスを4-1で逆転して、胸のすく勝利を手にした。そのキーマンになったのは山下諒也だ。切れ味鋭いドリブルを存分に発揮してカウンターの主役になった男は、何を考えて戦い抜いたのか。

上写真=山下諒也は横浜ダービーで自らの成長を実感した(写真◎J.LEAGUE)

■2023年8月26日 明治安田生命J1リーグ第25節(@三ツ沢/観衆13,321人)
横浜FC 4-1 横浜FM
得点:(C)林幸多郎、伊藤翔、オウンゴール、吉野恭平
   (M)アンデルソン・ロペス

スプリント数は両チーム最多の23回

「この1週間、もう本当にこの日のために頑張ったので、一段落して、いまほっとしています」

 心の底からの実感を込めて深呼吸するように、山下諒也は横浜ダービーを振り返った。首位の横浜F・マリノスを相手に、17位の横浜FCが4-1の逆転勝利だ。

 この小柄なドリブラーは、間違いなくその中心にいた。

 まずは52分、2-1とする逆転ゴールはこの男がきっかけだ。左サイドいっぱいでスローインを素早く受けると、そのままドリブルで攻撃に転じると、カットインして逆サイドへ展開。そこからのクロスがクリアされながらも、最後は伊藤翔が胸トラップから爽快な右足ボレーシュートを突き刺してみせた。

 そして、勝利をぐっと近づける62分の追加点もそのドリブルから。相手の攻撃を止めて自陣中央から一気に持ち運ぶと、立ちはだかるエドゥアルドの股下を抜いて右の伊藤に渡し、そのままゴール前に走り込んだ。伊藤が山下をめがけてセンタリングを送り、手前でエドゥアルドの足に引っ掛けられたものの、そのままゴールに転がり込むオウンゴールになった。

「一発で状況が変わると思っていたので、もうずっと狙ってました」

 この二つのシーンだけではなく、何度も何度も山下が見せつけたのは、揺るぎない「型」である。まるで超電導か何かで浮いているかのように、芝生の上をするすると縫って高速で進む滑らかなドリブル。それが首位と17位という現在地をものの見事にひっくり返して、逆転弾と追加点を生み出したのだ。

 ポジションを表記する上では、山下は1トップの伊藤翔の近くに構える「左シャドー」ということになる。ただ、横浜FMが押し込んでくるから5-4-1の並びで構えて、「4」の左サイドで守備を担当する時間も長い。その分、アップダウンが激しくなる。23回というスプリント数は両チームを通じて最も多かった。

 ただこの日は、体力的な達成感だけではなく、脳の疲労も心地よかった。

「今日は頭も疲れました。試合中ずっと、考え続けてプレーしていたんです。ずっと相手の嫌なことは何かと考えて、ずっと相手の動きを見ていたから、 体と頭が疲れました」

 負けられない横浜ダービーで、四方田修平監督が「今日はみんなスイッチが入っている感じがして、何かやってくれる匂いがぷんぷんしていた」と驚くほど、闘志も集中力もみなぎっていた。山下の思考も研ぎ澄まされていった。ではいったい、何を見て何を考えていたのか。

「(横浜FMの両サイドバックの)永戸(勝也)くんも松原(健)さんも、もうかなり高いポジションを取って僕の内側まで入ってくるので、逆にその裏には必ずスペースがあるわけです。うちのセンターバックの2人には、ボールを取ったら見なくてもそこにスペースが空いているからと言っていました。出してくれればあとは、僕が相手のセンターバック2人に走り勝てば大丈夫なので、彼らに取られないような位置はずっと探してました」

 サイドバックの裏、かつセンターバックの横。その条件を満たす場所を探し続けて、ボールを引き出して、ドリブルを仕掛けて、勝った。

 その最たるものが、62分の3点目のオウンゴールに至る一連の流れにあったと胸を張る。

「あのとき落ち着いてたから視野が広がって、見える景色も違ったんです。最初は一瞬、自分でいこうと思ったんですけど、翔さんの位置を見て相手の股を抜きました。あれは狙っていたんです。あの場面でそういうところも狙えるのは、自分として一歩成長したなと」

 伊藤のポジショニングも、エドゥアルドの足の運びも見えていた。新しい景色を見ることができたというそのことが、ライバルへの会心の勝利とともに、山下の大きな大きな収穫なのだった。


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