上写真=準決勝の川崎F戦では4-3-1-2の配置を仕込んできた片野坂知宏監督。決勝の浦和戦ではどうする?(写真◎小山真司)
「特別なことはしない」
大分トリニータは難しいシーズンを過ごしてきた。J1では結局、18位に終わってJ2降格を余儀なくされた。
「リーグ戦では本当に残念な、悔しい思いをさせてしまいました」
片野坂知宏監督はクラブを取り巻くすべての人に、何度も何度もそう詫びる。
しかし、天皇杯では決勝進出だ。リーグ戦終了後の12月12日に戦ったJ1王者・川崎フロンターレとの準決勝は劇的だった。相手の猛攻をしのぎ、0-0から延長戦に入って113分に先制されるピンチにも、120+1分のエンリケ・トレヴィザンが決めた値千金の同点弾で1-1として、PK戦へ。この日、当たりに当たっていたGK高木駿の活躍で5-4で乗り切って、ファイナルへと駒を進めた。
川崎F対策として、片野坂スタイルのベースとなる3-4-3システムではなく、4-3-1-2の配置で戦い抜いた。では、決勝の浦和レッズにはどう戦うのか。Jリーグでも屈指の策士と呼び声が高い片野坂監督である。明かすわけはない。
それでも「特別なことはしないですし、目の前の浦和戦にみんなで勝つために何をしなければいけないか共有することが大事です」が小さなヒントになるかもしれない。自身の退任が決まり、指揮を執る最後の試合で、大分にとってもJ1のクラブとして戦う今季最後の試合になる。平常心を強調するのは、特別な意味を含んだ一戦になるのは間違いないからこそだ。
もちろん、カップファイナルならではの高揚はあるという。
「リーグと並行して戦ってきて、ターンオーバーしていろんな選手が天皇杯に出て、勝ち上がるためにプレーしてきました。Jリーグ以外のチームとも戦って難しかったですが、選手みんなで勝ち取った決勝です」
リーグ戦はもちろんだが、天皇杯を決勝まで進むことができた原動力は、よりリアルな「みんなで成し遂げた」という実感だ。
「監督として、3つの国内タイトルがあるなかで、歴史の長い伝統ある大会で、アマもプロも関わる大会の頂点に立つことはなかなかないと思います。6年指揮してきた最後に素晴らしい結果で終えることは、どんなに幸せになるだろう。そのために、選手と戦っていければ最高です」
「大分トリニータの片野坂知宏」として、全精力を注ぎ込む最後の決戦が待っている。