上写真=カシマスタジアムでの現役最後の試合に臨んだ内田篤人(写真◎J.LEAGUE)
■2020年8月23日 J1リーグ第12節(@カシマ:観衆4,949人)
鹿島 1-1 G大阪
得点:(鹿)犬飼智也
(G)小野瀬康介
「鹿嶋は少し田舎ですが…」未来を担う子どもたちへメッセージ
試合開始30分前くらいのことだ。カシマスタジアムは大きな拍手に包まれる。ピッチに「背番号2」の選手が続々と出てきた。鹿島の先発、ベンチ入りメンバーが、内田篤人のユニフォームを着用して、ウォーミングアップのためにピッチに登場した。内田だけが唯一、背番号のないトレーニングウェアを着ていた。
8月20日にクラブから、内田との契約が8月31日で終了し、現役を引退することが発表された。そのため、第12節G大阪戦は、内田にとってのホームでのラストマッチとなる。カシマスタジアムでの現役最後の雄姿を目に焼き付けようと、4949人の観衆が詰めかけた。内田は第9節のサガン鳥栖戦以来、約2週間ぶりのベンチ入りを果たした。
出番は早々に訪れる。前半16分、右サイドバックを務めていた広瀬陸斗がピッチに倒れ込み、担架で運ばれた。すると、ベンチから姿を現したのは、2番のユニフォームを身にまとった内田だった。交代でピッチに入ると、MF三竿健斗からキャプテンマークを託される。左腕に丁寧に巻きながら、自身の定位置へと進んだ。
内田は試合終了まで走り抜いた。後半の飲水タイムには、右足のテーピングを巻き直す場面も。縦への突破、右足からのクロス。最後の時間まで、内田の持ち味を示した。試合を勝利で終えることはできなかったものの、後半アディショナルタイムにDF犬飼智也がヘディングシュートを決め、鹿島は引き分けに持ち込んだ。
試合終了のホイッスルの音が鳴ると、カシマスタジアムを万雷の拍手が包んだ。内田はザーゴ監督と抱擁し、一足先にロッカールームへと下がっていった。そして、再びピッチに姿を現し、ジーコ・テクニカルディレクターから花束を受け取る。フィールドの中央へと歩き出し、センターサークルに設置されたマイクの前に立つと、静かに語り始めた。
「今日、僕はここでサッカー選手を引退します。
鹿島アントラーズというチームは、数多くのタイトルを取ってきた裏で、多くの先輩方が選手生命を削りながら、勝つために日々努力してきた姿を僕は見てきました。僕はその姿を今の後輩に見せることができないと、日々練習していく中で体が戻らないことを実感し、このような気持ちを抱えながら鹿島でプレーすることは違うんじゃないかと、サッカー選手として終わったんだなと、考えるようになりました。
もう一花、二花、咲かせたいと日本に戻ってきましたが、その中で隣に寄り添ってくれたトレーナー、『まだやれる』と背中を押してくれたザーゴ監督、大岩(剛)前監督、良いときも悪いときも共に過ごしたサポーター、ファン、スポンサー、そしてチームメイト、本当にありがとうございます。このようなシーズン、チーム状況で、僕の決断を理解してくださった強化部、監督、そしてチームメイト、本当に申し訳ない。日の丸を背負ってプレーする重さも、殺気のあるドイツでのスタジアム、辛さもうれしさもすべて僕の財産です。
もう少しだけ。
この話を聞いているプロサッカー選手を目指す子どもたち、サッカー小僧の皆さん、鹿嶋は少し田舎ですが、サッカーに集中できる環境、レベルの高さ、そして今在籍している選手が、キミたちの大きな壁となり、ライバルとなり、偉大な先輩として迎え入れてくれるはずです。僕はそれを強く願います。
最後に、サッカーを通じて出会えたすべての人たちに感謝します。また会いましょう」
カシマスタジアムでのラストダンスは終わった。だが、内田のサッカー人生が終わったわけではないだろう。日本を代表するサイドバックは、これからどのような道を歩むことになるのか。内田篤人というフットボーラーの今後の活躍にも注目だ。
現地取材◎サッカーマガジン編集部 写真◎J.LEAGUE