上写真=カシマスタジアムでJリーグデビューを飾った沖(写真◎J.LEAGUE)
■2020年8月8日 J1リーグ第9節(@カシマ:観衆3,913人)
鹿島 2-0 鳥栖
得点:(鹿)和泉竜司、エヴェラウド
(鳥)なし
プロ3年目でたどり着いた舞台
鹿島アントラーズの地元である茨城県鹿嶋市で生まれ育った20歳の守護神が、憧れのピッチでプロデビューを果たした。「小さい頃からこのカシマスタジアムで試合を見てきて、いずれはこのスタジアムで試合に出て勝利することを目標にやってきた。まず、今日の試合に勝てたことは本当によかった」。2週間後の8月22日に21歳の誕生日を迎えるGK沖悠哉は試合後、喜びと安堵の気持ちが入り混じったような表情を浮かべた。
幼少期から、鹿島の育成組織で成長してきた。2018年に鹿島ユースからトップチーム昇格。しかし、昨季までは公式戦の出番が訪れることはなかった。同世代では広島の大迫敬介や京都の若原智哉といったライバルが、すでにトップチームで定位置を獲得している。「試合に出ることは早いに越したことはないけれど、(これまでは)その実力が伴っていなかった。プロ1年目、2年目も、自分が監督だったとして自分という選手を使うかといったら、使わないと思う」。また、「それくらい、実力の差がありました」という、日韓の元代表GK、曽ヶ端準とクォン・スンテの壁も厚かった。
ただ、偉大なGKと練習する日々は、若き才能の成長を促している。コロナ禍が始まったころの今年2月、沖は練習後に「(曽ヶ端とクォン・スンテには)まだまだ及ばないけれど、自分のストロングポイントで負けてはいけない。それをアピールして、ゴールを守る技術を上げていくために、一日一日を無駄にしないようにやっていく」と、決意を新たにしている。
特に、同じ地元出身の大先輩である21番の背中を、常に追いかけてきた。今季開幕前のプレシーズンマッチ・水戸戦では、曽ヶ端と交代してピッチに入った。「ソガさん(曽ヶ端)に『頑張れよ!』って言ってもらいました。ソガさんにずっと憧れてやってきたので、自分の中で感慨深いものがありました」と、気持ちは高ぶった。
そして、プロ3年目でJ1のピッチにたどり着いた。「『落ち着いていけ』とか、そういう言葉はかけてもらえたけれど、逆に(それ以上は)声をかけられなかったというか。スンテさんもソガさんも、自分の腰あたりを叩いてくれた。言葉はないけれど、それが「頑張れよ」というメッセージだと思います。二人とも口数はあまり多くはないかもしれないけれど、そういう意図を感じ取ることができました」と、試合前のやり取りを明かす。
「もうここまで来たら、自分との勝負」。背番号31は、この日キャプテンマークを巻いたMF永木亮太の後に続いて入場した。集合写真の撮影が終わると、これから守るゴールへと向かう途中に一度立ち止まり、スタンドのサポーターに向けて、頭を下げた。
「いざ試合に入ってしまえば緊張はなくて。まあ、吹っ切れたというか。むしろ、試合前日のほうが緊張していました」。3913人の拍手が、沖の背中を押す。「今日はザーゴ監督が試合前、みんなに『沖をカバーしてやれ』と言ってくれて、ディフェンスライン(の選手)もカバーしてくれたし、チームみんながカバーしてくれた」。鹿島ユースの2学年先輩であるセンターバックの町田浩樹をはじめ、チームメイトは体を張った。前半終了間際に訪れた相手FW趙東建のシュートは、沖の目前でFW伊藤翔がブロックした。