上写真＝急造の「日本女子代表」が、最高のプレーでアジア大会連覇！（写真◎Getty Images）
■2023年10月6日 アジア大会サッカー女子決勝（中国・杭州）
日本 4-1 朝鮮民主主義人民共和国
得点：（日）中嶋淑乃、大澤春花、谷川萌々子、千葉玲海菜
（朝）キム・キョンヨン
6分間で3ゴール！
強力な攻撃力を誇る北朝鮮に、終わってみれば4-1の快勝である。急造でも、日本は強いのだ。
このアジア大会に臨んだ日本女子代表は「なでしこジャパン」ではなく、国内のWEリーグに所属するメンバーが中心。大きな注目を集めた女子ワールドカップのメンバーからはFW千葉玲海菜だけが参加するメンバー構成で、初顔合わせの選手も多く、事前の練習もわずか2日だけという難しい状況だった。それでも日本が底力を見せたのだ。
グループステージでは格の違いを見せつけて、3試合で23得点。準々決勝のフィリピン戦では今大会初めての失点を喫したものの、またも8ゴールを集めてベスト4へ。ここでホスト国の強敵・中国と激突し、完全アウェーの空気にもひるまなかった。前半は4-1でリードしながら1点差まで追い上げられて苦しんだが、このまま4-3で逃げ切って、2大会連続で決勝に進出した。
その相手は、アジア大会過去3度と最多の優勝を誇る朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）。猛烈な大歓声を受ける北朝鮮が押し込んでいき、日本はやや受けに回る立ち上がり。それをしのぐと、最初のチャンスで先制だ。
10分、右から右MF山本柚月が中にドリブルで運んで逆サイドへ送ると、左MF中嶋淑乃が抜け出した。飛び出してくるGKをよく見てペナルティーエリアの外からワンタッチでループ気味に右を抜き、見事に先手を取った。中嶋は2試合連続の先制ゴールだ。
日本がこの中嶋のドリブルや千葉の抜け出しでチャンスを作る一方で、時間がたつにつれて北朝鮮のパスワークと個々のテクニックが冴え始め、38分に同点にされる。右サイドをDFウィ・ジョンシムに抜け出され、折り返しをセンターバックの後藤若菜がなんとか足を伸ばして触るが、こぼれたところをFWキム・キョンヨンに左足で蹴り込まれて同点に追いつかれた。
ここからは北朝鮮が押せ押せ。特に日本の右サイドを突いて、立て続けに押し込んできた。日本はこのパワーをなんとか止めて我慢すると、少しずつボールを動かしてペースを取り戻していく。
64分に左サイドバックが佐々木里緒に代わり、その佐々木から左奥に走ったボランチの谷川萌々子へ縦パスが出て、抜け出すところで最後は相手に当たってCKを獲得。これを谷川が中央に蹴り込むと、後半から入っていたMF大澤春花が豪快にヘッドでたたき込んで、66分についに追加点を手にした。
ここからのゴールラッシュが鮮やかだった。69分には右から運んで、谷川がペナルティーエリアの手前から左足で驚きのパワーショットでねじ伏せて2点差とすると、72分にはロングパスで左を抜けた千葉が左足でど真ん中に打ち込んで、ついに4-1とした。
あとは攻めの姿勢を失わずに、リスク管理をしながら落ち着いて時計の針を進めるだけ。北朝鮮が狙う猛攻も体を張ってしのぎ、4-1で難敵を振り切って、見事に連覇を果たした。
女子ワールドカップからの唯一のメンバーの千葉がゴールを奪い、そのワールドカップのトレーニングパートナーとして帯同して経験を積んだ谷川やセンターバックの古賀塔子が堂々のプレー、さらには交代選手がそれぞれ持ち味を出してチームに貢献した。大胆に攻めてゴールを重ねて勝ち切った堂々の90分だった。
「チーム全員で取った金メダルです」と胸を張ったのは、勝ち越しゴールの大澤。そして「めちゃくちゃうれしいです」と笑顔が弾けたのが、先制点を決めた中嶋だ。先制点は「裏のスペースが空くことは分かっていたので、いいボールが来てよかった」と分析どおりのアタックだった。そして、「もっともっと高みを目指して成長していける」と実感できたことは、この大会のためだけに結成されたチームが手にした、金メダル以上の収穫だろう。
急造の「アジア大会日本女子代表」が、少ない準備期間も過密日程も乗り越えて、中国や北朝鮮という強豪を破って、2大会連続で3度目のアジア女王に君臨する。なんとも痛快な物語で、日本サッカーの底力をアジアに誇示した。
