「らしさ」全開の世界一
ビアンチ率いるボカは、キックオフからラッシュをかける。先制点は開始3分だった。
左サイドを抜け出したデルガドが折り返すと、そこへタイミングよく走り込んだパレルモが左足で合わせ、ネットを揺らした。
まさに電光石火。大会史上最速ゴールだ。しかし、ボカの奇襲はこれだけでは終わらない。
先制点から3分後の6分、リケルメが鋭い矢を放った。レアルの一瞬の隙を突き、最終ラインの裏へロングパスを送り込む。球の落ちる先に現れたのが、またしてもパレルモだった。転がる球を再び左足で蹴り込み、レアルのベンチを凍りつかせた。
分野の違う3人のスペシャリスト(配る人・運ぶ人・決める人)が演じた見事なまでの流れ作業。いかにもボカらしい攻撃で、早々と試合の行方を決定づけた。
いや、ボカらしさが全開だったのは、むしろ残りの84分間だったかもしれない。4人のバックスと3人の中盤が強固なブロックを組み、レアルのアタック陣を見事に封じ込んでみせた。守らせても「見せ場」がある。それが、スペシャリスト集団ならではの強みだった。守ると決めたら、とことん守る。アルゼンチンという大国の奥深さだ。
実のところ、リケルメの働きも地味に効いている。レアルに押し込まれる展開が続く中、消耗する守備陣に一息つかせるオアシスとなったからだ。
相手を寄せつけないキープ力は圧巻の一語。球を奪わせたら右に出る者のいないレアルのクロード・マケレレ(フランス)でさえ、球を懐深く収めるリケルメの前では、赤子も同然だった。
食いつけば、かわされ、無理に当たれば、倒れてファウルの繰り返し。レアルの面々は正気を保つだけでも一苦労だったか。最終スコアは2-1。レアルの反撃をロベルト・カルロス(ブラジル)の1点に抑えたボカが世界一のタイトルを祖国へ持ち帰った。
南米勢の優勝は実に6年ぶり。指揮官ビアンチがかつて率いたベレス以来のことだった。
リケルメが封じられたら、勝ち目はなかっただろう。ほかに打つ手がないからだ。それが、スターシステムの宿命でもある。だが、リケルメは止められず、ボカは勝ち続けた。1人の天才と心中する覚悟を避けて、世界一になれたのかどうか。
使うリスクと使わないリスク。いったい、どちらが大きいのか。『リケルメと愉快な仲間たち』の冒険譚が、その答えを教えてくれているはずだ。
著者プロフィール◎ほうじょう・さとし/1968年生まれ。Jリーグが始まった93年にサッカーマガジン編集部入り。日韓W杯時の日本代表担当で、2004年にワールドサッカーマガジン編集長、08年から週刊サッカーマガジン編集長となる。13年にフリーとなり、以来、メディアを問わずサッカージャナリストとして活躍中。