ロシア
※カバー写真:ロシア代表の10番を背負うスモロフ。攻撃の柱として期待される(Getty Images)
重圧をはねのけてグループ突破なるか?
開催国として熱狂的な国民の期待を背負うものの、準決勝に進出したEURO08を除けば、近年の国際大会での成績は芳しくない。期待ではなくプレッシャーを背負う格好となり、グループステージで姿を消す事態すら危惧される。
決勝トーナメント進出の使命を負う指揮官は、精彩を欠いたEURO2016後に就任した元代表GKチェルチェソフ。基本化した3-5-2システムでは、ジルコフとサメドフの両アウトサイドから、スモロフやAl・ミランチュクへ送り込むクロスが攻撃の生命線で、このアプローチは正解かに思われた。攻撃が活性化されたチームは、昨年後半のテストマッチで韓国から4得点で勝利を奪い、強豪スペインとも3-3の引き分けを演じている。
だが、この2試合も見方を変えれば、計5失点だった守備の不安が次第に問題視されるようになった。自軍ゴール前に頼れるアキンフェエフがいても無失点試合の数は伸びず、システムが攻撃的に機能してリードを奪っても、逃げ切りが怪しい。加えてヒザを痛めたCBのギオルギ・ジキヤが本番に間に合わなくなったため、指揮官の心中は穏やかではない。
心労を和らげてくれる材料があるとすれば、期待の新星ゴロビンが好調を維持していることか。開幕前に22歳になるタレントが、地元の観衆からの勇気もエネルギーに創造性あふれる決定的なパスを連発できれば、後方に不安を抱えるチーム全体を鼓舞できる。若き司令塔が世界の檜舞台で頭角を現せば、決勝トーナメント進出への道が広がる。
文◎クライブ・バッティ 翻訳◎山中 忍
サウジアラビア
久々の出場も直前まで混乱が続く
この10年ほどはW杯予選のみならず、アジアカップでも苦しんでいたが、15年8月に就任した元オランダ代表監督ファンマルバイクの手腕により、4大会ぶりの世界への挑戦権を手に入れた。しかし同国協会は、W杯準優勝を知るその救世主を自ら手放してしまう。同国への滞在など生活面も含めた要求を含んだ契約延長の提案を拒否し、オランダ人指揮官は去っていった。後任となったアルゼンチン人のバウサも、指揮した2試合の結果が振るわず解任された。
後を受けたのは、チリ代表を率いていたピッツィ監督。時間がない中、新指揮官は2月と5月にキャンプを行なうなど、戦力の見極めに必死だ。さらにチームプレーの徹底を狙い、その目的はゆっくりとだが形にはなりつつある。それでも、個人のレベルは一朝一夕では上がらず、選手の細かいミスの多さにピッツィ監督も頭を抱えているようだ。
さらに悩ましいのが、得点力の問題だ。エースFWのアルサハラウィにもピッツィ監督は満足できないようで、5月のキャンプでは国内リーグでも7試合しか出場がなかった20歳のカマラを招集することを決意した。同国協会が提携しているスペインへと10人前後の若手が武者修行に出たものの、多くは強豪クラブでむしろ出場機会を得られず苦しんでいる。アルサハラウィをマンチェスター・Uの練習に参加させたが、その効果も未知数だ。
混乱は大会直前まで続くことになりそうだが、久々のW杯出場にサウジアラビアは意欲を持って臨む。
文◎杉山 孝
エジプト
一撃必殺のカウンターは切れ味十分
エジプトが28年ぶりにW杯に戻ってきた。15年に就任したクーペル監督の下で着実に力をつけたファラオたち(エジプト代表の愛称)は、昨年のアフリカ選手権では頂点まであと一歩に迫るなど、快進撃を続けている。
かつてバレンシアを率いて2年連続でCL決勝に進んだクーペル監督は、ここでも自身の代名詞といえる堅守速攻のスタイルを貫き、堅実なチームを作り上げた。今予選で複数失点を喫したことは一度もなく、強豪ガーナを抑えての予選突破だった。 W杯の最年長出場記録の更新が確実なGKエルハダリが最後尾に立ち、ヘガジとガブルが中央でコンビを組むディフェンスラインは、俊敏ではないが、相互理解と結束力で頑丈なブロックを形成。ボールを奪うと聡明なレジスタ、エルネニーが発射台となり、ミサイルのような鋭いカウンターアタックで相手ゴールに襲いかかっていく。
攻撃の核は言うまでもなく、サラーだ。所属するリバプールで今季ゴールを量産し、CL決勝にまで導いたエジプトが誇るスーパースターは、予選でもチーム最多の5得点を記録。そのCL決勝で負傷し、回復具合は気がかりだが(2戦目から登場との報道もある)、爆発的なスピードは、グループのすう勢を決める武器となるだろう。
開催国のロシアに加えて、元世界王者のウルグアイも同居するグループを突破するのは簡単ではない。ただ、いまや世界中のどんなDFも止めることができないエースが輝きを放てば、初の決勝トーナメントも夢物語ではない。
文◎パスカル・フェレ 翻訳◎木村かや子
ウルグアイ
タレントが出現し、運も後押し
今世紀に入って毎回苦しみ続けていた予選を、今回はあっさり突破した。その後の欧州遠征は1分け1敗で終えたものの、3月のチャイナカップ(中国で行われたテストマッチ)ではチェコとウェールズを下して仕上がりの良さを感じさせた。
試合後、タバレス監督自身、「試合に対する姿勢や努力を惜しまない気持ち、すべてを出し切る点は以前のままだということを確認できたし、内容と結果に選手たちは好感触を得た。この2試合で我々はより強くなった」と、満足げに語っている。
また、今回のウルグアイは抽選運にも恵まれた。4年前はイングランドやイタリアと同じ「死の組」に入ってしまったが、今大会のグループAは全8組の中でも楽な方と言われる。また試合順も良く、第2戦で勝ち抜けを決められる可能性もある。短期の大会での戦力の温存は大きなアドバンテージとなるので、タバレスは全力で初戦をとりにいくだろう。
ウルグアイ最大の武器はスアレスとカバーニが並ぶ2トップであり、ラ・リーガのアトレティコでもコンビを組むゴディンとヒメネスを中心としたディフェンスだ。だが、今大会で注目したいのは両者に挟まれた中盤だ。ベシーノ、ベンタンクール、ナンデス、バルベルデといったタレントが頭角を現しており、タバレスにとってはうれしい悩みとなっている。問題は彼らの長所である「攻撃好き」と、自ら伝統に仕立て上げた「堅いサッカー」のバランスをいかにとるかだが、ベテラン監督にとっては腕の見せどころでもある。
文◎横井伸幸