上写真=合宿初日は2部練習を実施。午後の実践形式の練習で中村帆高は右サイドバックを務めた(写真◎サッカーマガジン)
何も残せなかったらもったいない
「1年前は正直、まったくここの場に入れるなんて思っていなかったし、1年前は関係ない話だなって思っていましたね」
今回が初招集の中村帆高は、合宿初日の取材で率直な思いを口にした。1年前はまだ明治大の4年生。年齢的には対象選手であっても、五輪代表は自身と無関係な場所だった。
しかし、FC東京に入団し、状況は変わった。代表候補合宿に招集されるに至った。それは誰でもない、中村自身の力によって獲得した『立場』だろう。
「選んでいただけた以上は、この5日間で自分の持ち味を存分に出していきたいと思っています。この5日間で何も残せなかったとなったらそれこそもったいないことだと思うので、あまりうまくやろうとか考えず、自分の持っているものを、どうやったらすべて出せるかを一番に考えてやっていきたい。半年後のオリンピックとか、なるようにしかならないと思うので、まずは本当に、目の前のこの合宿だったり、チームに帰っても結果を残し続けることだと思います。それしか半年後の結果にはつながらないと思うし、目の前の今を全力でやりたい」
目の前のことを全力でやり切って、2020年シーズンを駆け抜けてきた。大学時代に自分の強みと認識していた守備力も、大学基準とプロ基準では大きく違った。最初は戸惑いもあったという。しかし、日々の練習で自身を磨き、さらに足りなかったビルドアップや攻撃面の向上に努めて、着実に前進してきた。「まだ出せないことのほうが多いですけど、本当に少しずつ練習でやっていることが試合で出せたり、できることが増えていると感じます。まだまだやらなければいけないと思っていますけど」と、本人も成長を実感している。
今年11月にはアジアナンバーワンクラブを決めるACLにも出場した。上海申花との再開初戦(グループステージ第3節)ではハンドを取られてPKを献上。敗戦の原因をつくってしまったが、国際試合でしか味わえない経験を積んだ。ラウンド16で北京国安に敗れてカタールから帰国後、最初の試合となった広島戦ではプロ初ゴールを挙げてチームを勝利に導いた(1-0)。その試合後には「最初の一歩としてのスタートラインに立てただけで、こんなので満足していたらそれだけの選手で終わってしまう。次に向けてやらないといけない」と話し、さらなる成長を期していた。その胸の内には常に向上心がある。
「この1年で、サッカーというもの全体の、自分の見えていなかった景色が見えてきた。そこに自分の色をどうやって出していくかがこれからの課題。今はそこを練習しています」
五輪代表チームも、1年前は見えていなかった景色の一つだ。ただ今回の合宿で中村は、見える景色をより鮮明にすべく、自身の色を出し切ると誓っている。