FC東京はピーター・クラモフスキー監督就任以来、未だ負けなしだ。天皇杯も含めた4試合は2勝2分(うち1つはPK勝利)。新指揮官の就任とともにチームにどんな変化が生まれたのか。そして16日、ホーム・味の素スタジアムで迎える鹿島アントラーズ戦(19時/J1第21節)も無失点は続くのか。チームの現状を考察した。

上写真=12日に行われた天皇杯3回戦、東京V戦にPK戦の末に勝利し、リクエストに応じてポーズをとる松木と安部(写真◎Getty Images)

ピッチ上の整理と練習で取り戻したベース

 ピーター・クラモフスキー監督就任後、チームはリーグ戦で2勝1分けの負けなし。しかも、その3試合はいずれも無失点。それ以前は17試合で28失点を記録し、リーグで4番目に失点が多かったことを考えれば、大きな変化を遂げたと言える。

 新監督の初陣となった6月24日の名古屋戦から変化は見て取れた。最も印象的だったのは、強度の高さだ。ボールの争奪戦に果敢に挑み、チームとして受け身の守備ではなく、アタックする守備を実践。相手のボールホルダーに対してプレスを仕掛ける際には、奪い切ることをしっかり意識してプレーしていた。自然、高い位置でマイボールにする機会が格段に増えている。結果、2−0の快勝。試合後は選手も手応えを口にした。

「練習がすごく強度の高い練習で、やっぱりその練習ができたからこそ、入りからガンガン行けたのがあるのかなと。(ドイスボランチになったので)距離感よくプレーしようというのは(松木と)話していて、自分たちでボールをつないでテンポを出しながらというのと、球際厳しく行くことと、セカンドボールを拾うことは常に声を掛け合っていました」(安部柊斗)

 準備期間は決して多くはなかったものの、相手ボールホルダーに対する積極的なアプローチと、ボールロスト後の振る舞いにフォーカスし、トレーニングを積んだ成果がいきなりピッチに表れた。本来のボランチではなく、おそらくはチーム事情から右サイドバックで先発を続ける小泉慶も練習内容の変化がプレーにつながっていると指摘した。

「練習から強度を求められていますし、監督が代わったことでもう1回、リセットされて競争が生まれ、危機感も出てきて練習から激しくやれています。やっぱり強度で上回れれば、このチームは負けない。もう1回そこを引き締めた。それが大事なのはわかっていましたけど、練習で激しくやれていたかというと、なあなあになっていた部分もあったと思うし、監督が代わって色々な危機感も出て、練習でバチバチやっているので。やっぱり強いチームは練習の質が高いし、強度も高い」

 高強度と素早い切り替えというチームの『ベース』を取り戻したFC東京について、かつて指揮を執った敵将・長谷川健太監督は「今日は東京が最後まで気持ちを切らさず、出た選手がよく走っていた」と印象を語り、その変化についても口にした。

「東京が前から来るのはわかっていたので、そこをうまく外しながらディフェンスラインの背後というのが一つの狙いでした。ただ、森重(真人)にしてもエンリケ(・トレヴィザン)にしても、非常にタイトなマークで、なかなか前線で起点をつくれなかった。いつもの東京であればどこかで抜けるのですが、今日は最後まで抜けずに本当に集中力を切らさずに戦っていた。今日は仕方がないという感じです。いろいろ手は打ちましたが、何一つうまくいかなかった」

 この日に限っては完敗だったと認めたが、興味深いのは強度の持続に驚かされたという部分。かつての指揮官の指摘は、そのままFC東京の変化を示しているのだろう。

 アルベル前監督時代は、的確に立ち位置をとることにフォーカスし、ボール支配率を重視していた。就任以来、繰り返していた指揮官の発言を振り返れば、それはクラブの求めでもあったはずだが、そのことに注力するあまり、長谷川監督時代に持っていたはずの強度の高さや切り替えの速さが『薄まる』ことにもなった。結果、アルベル監督時代の終盤にはピッチ上で起こる事象を整理できずにしばしば混乱し、守備の局面でも攻撃の局面でも選手の意識が統一されず、バラバラのままプレーすることにもなっていた。

 クラモフスキー監督がまず着手したのは、混乱が起きないようにすることだった。そのために約束事を作り、チームで共有している。その上でベースとすべき強度の高さと素早い切り替えを強く求めた。それがチーム立て直しの方法として正しいことはここまでの成績が示している。

安部&松木というドイスボランチの効果

画像: 名古屋戦で勝利し、スタッフと喜ぶクラモフスキー監督(写真◎J.LEAGUE)

名古屋戦で勝利し、スタッフと喜ぶクラモフスキー監督(写真◎J.LEAGUE)

 フォーメーションやメンバー構成についても新指揮官は手を加えている。フォーメーションは4−2−1−3。新たにスタメンに定着したCBのエンリケ・トレヴィサン、左ウイングの俵積田晃太も注目だが、ピーター・トーキョーのポイントとして挙げたいのが、ドイスボランチである。4−3−3を採用することが多かった前半戦とは形が異なり、安部と松木がボランチコンビを組むことで攻守両面でバランスがよくなった印象を受ける。守備範囲の広さとボール回収力の高さで、前向きの守備から一気に攻撃に出るプレーも見られ、チームに推進力を与えている。

 名古屋戦ではトップ下で先発し、以降は仲川輝人の負傷離脱もあってウイングでプレーしている渡邊凌磨に聞くと、その効果について明快な答えが返ってきた。

「今までサイドでも中央でも数的優位を作るときって、4−2−3−1でも4−4−2でもだいたいボランチとボランチがマッチアップすると思うんですけど、そこにあの強度の高い2人がいることによって、その後ろが空いてくる。それはすごく僕にとっても、前の選手にとってもプラスだし、セカンドボールが拾えてショートカウンターが成立しているのも、あの2人の守備範囲の広さのおかげ。(ボランチ)1枚じゃ多分難しくて、今まで長いボールを蹴られた後にアンカーの脇を使われていたから、それが改善できて、セカンドボールを拾えているというのは、すごくプラスだと思います」

 中盤中央、それも自陣深い位置ではなく、敵陣ないしミドルゾーンをボールの狩り場にできる安部&松木のドイスボランチは渡邊の言う通り大きな強みになっている。その背後に構える2センターバックとの関係もよく、中央の守備の安定が無失点に大きく寄与していると、小泉も指摘していた。

 3試合連続無失点を実現した浦和戦後、他ならぬ松木もこう手応えを語っている。

「柊斗くんといい距離感でできていますし、守備のところは基本的に自分がバランスを見てという感じなんですけど、自分も前に行きたいときに行けるので、良い関係性を築けていると思います。でも、もう少し自分たちのところで展開力だったり、ボールを運んで相手陣地に潜り込んでいくというか、そういう感覚も、もっとできたかなというふうには今の試合(=浦和戦)を終えて思いますね」

 高強度と素早い切り替えの実践、そして2ボランチの採用によって守備面の改善は順調に進んでいると言っていいだろう。今後のポイントは、一つには消耗が激しい夏場にも同様のプレーを続けていけるかどうか。選手も口々に継続することが重要と強調する。

 また先述の通り、ピーター・トーキョーの根幹たるボランチコンビには海外移籍の噂が絶えない。仮に今夏に移籍することになれば、再編成を余儀なくされるが、その際に同様の水準を維持できるかどうかもポイントだ。

 そして攻撃面についても、現段階ではまだこれまでの『貯金』と選手個々の能力によるところが大きい。ショートカウンターが実践できない場合に、ポケットを取る動きやサイド攻略をやり切れるか、未知数の部分は多い。むろん、そのことはクラモフスキー監督も重々承知で、しっかり今後に目を向けている。ここまでの戦いぶりを「すごくいいスタート」と評価した上で「まだまだやれることは多くある。まだまだポテンシャルがあり、可能性が多くあると思っています。それを実現するために一歩一歩、取り組んでいきたいし、油断せずに行っていきたい。そうすることによって、夢に、自分たちが今より理想とするチームに近づけると思っています」と語っている。

 次戦は、6位の鹿島アントラーズが相手。11位と順位は下に位置するFC東京だが、3位名古屋や4位浦和との試合を無失点で終えており、着実に勝ち点も積んできた。自然、鹿島戦も自信を持って臨めるのではないか。勝てば、大きく浮上するチャンスだ。

 週中の天皇杯3回戦では、ほぼメンバーをローテーションすることなく臨み、120分プラスPK戦まで戦った。酷暑の中でのゲームであったために消耗は激しかったに違いないが、鹿島戦は上位進出のために負けられない一戦。チームの総合力とともに指揮官の手腕も問われることになるだろう。

 7月16日、味の素スタジアムで行われる鹿島戦。FC東京の今後を占う上でも注目の90分になる。

取材◎佐藤 景


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