日本代表は20日、大阪・パナソニックスタジアム吹田でペルー代表と対戦した。技術に優れる相手にボールを握られたが、選手たちには持たせている感覚もあったという。結果は4−1で快勝。世界の強豪国と戦っていく上で、今回得た『感覚』は一つの指標として大きな意味を持つかもしれない。

上写真=伊藤洋輝の先制ゴールを仲間が祝福。ここから日本代表の攻撃はより鋭くなっていった(写真◎毛受亮介)

今後の指標になる数字

「こっちのボール支配率4割…!?」

 と驚き、目を丸くしていたのはDF板倉滉だ。20日にキリンチャレンジカップ2023のペルー代表戦に4-1で勝利した日本代表のボール支配率は「41%」だった。その数字を聞いた板倉は、次のように続ける。

「あまりそういう(支配率4割という)感覚はなかった。ボールを持たれていてもあまり嫌な感じはないし、どちらかというと『持たせている』という感覚でできていた証拠だと思う。逆に自分たちのボールになったらクオリティ高く、カウンターがうまくハマったので、それが得点につながっているのかなと思います」

 日本代表は自陣からのポゼッションでペルー代表を押し込み、22分にDF伊藤洋輝のミドルシュートで先制に成功。37分にはDF菅原由勢の右サイドでの持ち上がりを起点に速攻を繰り出し、FW三笘薫が追加点を奪った。

 後半に入って63分には中盤でペルー代表のパスを引っ掛けてカウンター。最後は三笘のお膳立てを受けたFW伊東純也が相手GKをかわしてシュートを流し込み、日本代表はリードを3点に広げる。

 75分には途中出場のFW堂安律とFW久保建英のプレスで相手のパスミスを誘い、それを見逃さなかったFW前田大然がボールを奪って4点目。83分にペルー代表が1点を返すものの、それまでに勝敗はほぼ決していた。

 自陣からしっかり組み立ててのゴールも、カウンター攻撃でのゴールも、ハイプレスで相手からボールを奪ってのショートカウンターも見せられた。数字上はペルー代表のボールを持つ時間が長かったものの、日本代表の「84.6%」というパス成功率を見ると、ボール支配率「41%」でも意図的にボールを運べていたことがうかがえる。

 板倉にも「全員に前への意識があったのがすごく良かったなと思っていますし、自分たちもテンポ良く(パスを)回すことができた」という感覚がある。他の選手たちにも、似たような発言は多かった。

 例えばピッチに立っていなかったGKシュミット・ダニエルは「効率よく勝った感じじゃないですかね。(ボールを)握られたのは日本が得点してからだと思うし、(相手にボールを)持たせても、やりたいことをやらせなかったと思う」と語る。そのうえで「こういう戦い方が理想的かどうかわからないですけど、これから何回でも取り入れていけばいい」と続けた。

 2026年の北中米ワールドカップに向けて発足した第2次森保ジャパンは、「二兎」を追っている。それは2022年カタール・ワールドカップでドイツ代表やスペイン代表を破った際に見せたような速攻の精度向上と、両チームのような強豪国相手にもポゼッションで主導権を握る時間を伸ばすことだ。

 今回のペルー代表戦とは集計方法が違うとはいえ、カタールワールドカップのドイツ代表戦における日本代表のボール支配率は22%、スペイン代表戦に至っては14%しかなかった。別に集計されていたイーブンボール時の割合を含めてもドイツ戦のボール支配率は30%そこそこ、スペイン戦に至っては20%に満たないのが現実だ。

 それでもワールドカップの舞台では勝利したわけだが、世界の舞台で自分たちよりも地力が勝る強豪国に勝利する確率を上げるためには、やはりボール支配率を少しでも高めたい。自分たちがボールを持って攻める時間を増やせば、必然的に相手の攻撃時間や回数が減る。主導権を握れなくても少ないチャンスを決めきれれば勝てるのかもしれないが、チャンスの数が多いに越したことはない。

 ただ、どんな相手にも50%以上の時間ボールを握りたいという理想はあっても、3年後のワールドカップまでにそこまで数字を伸ばすのは現実的ではない。一方で数字上は相手に上回られたとしても、ペルー戦のように40%のボール支配率があれば、選手たちは劣勢を感じすぎず、チームとして意図した形のチャンスを作れる回数も増える。

 今回対戦したペルー代表がワールドカップ出場国に準ずる実力を持ったチームであることも加味すると、3年後により高みを目指すにあたってボール支配率「40%」というのは1つの重要な指標になるのではないだろうか。

 シュミットも、ドイツ代表やスペイン代表のような相手に対してボール支配率を50%以上まで上げていくことは「2、3年では厳しい」と認識している。そのうえで「ゆくゆくそうなっていくためには、20%台だったのを、この2、3年で40%くらいにはしなきゃいけない」と述べる。

 板倉もペルー戦で大きな手応えを得たようだった。ボール支配率41%でも「ワールドカップの時のような『持たれている感』はない」と語り、次のように続ける。

「自分たちの方が効率的に攻められたと思うので、今(41%と)聞いて本当にびっくりしていて『こっちが4割だったか…』という感覚ですけど、それはたぶん僕たちにとってはいいことで、ボールを持たせながらも守備で狙って、その後のカウンターもうまくできたと思います」

 もしペルー戦のボール支配率が30%に近かったら、相手に主導権を握られている感覚が強く、当然ピンチの数も増えたはずだ。それが40%になると印象もメンタリティもかなり変わってくる。筆者も試合後にスタッツを見て、スタンドから見ていた印象とは異なるボール支配率に驚いた。

 内容面でも「型にとらわれず、相手をしっかり見て、自分たちのプレーをしようというところはできたと思う」(板倉)、「ビルドアップの部分で前回みたいに手詰まりな感じはあまりなかった」(シュミット)と収穫は大きかった。「チームとして世界で戦えるレベルにどんどん近づいている感じがします」というシュミットの感覚も試合内容によって裏づけられた。

 2点目のきっかけを作った菅原は「正直に言うと、僕らが掲げているのは6対4で支配して、今日みたいにしっかり勝ち切ること。そうやらなきゃいけないと思うんですけど、世界を相手にしたらそんなに簡単にはいかない。でも、こうやって少ないチャンスを決め切ること、勝ち切ることができたのは本当にポジティブに捉えてもいいと思う」と、ボール支配率41%での勝利に手応え十分なようだった。

 ペルー代表は強度もクオリティーも高く、攻守どの局面でも非常に手強かった。そのチームから4点を奪った試合展開は、今の日本代表にとって理想的と言えよう。南米の中堅国といえども大量リードで勝つのは決して簡単ではない。菅原も「悲観することは何もなかった」と胸を張る。

 そんな試合で記録されたボール支配率「41%」という数字は、今後強豪国と戦っていくにあたって日本代表のパフォーマンスを測る指標の1つになるのではないだろうか。2連勝で終えた6月シリーズの2試合では、日本代表が次のワールドカップに向けて作ろうとしているチームの輪郭がほんのりと見え始めた。

取材・文◎舩木渉


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