石川は「安部柊斗」に、羽生は「中村拓海」に期待
――カップ戦の決勝で勝利を手にするポイントを改めて言葉にすると?
石川 ニュウさんは3回決勝を経験しているけれど、僕は1回だけだから、ここまずニュウさんに話してもらいましょう(笑)
羽生 緊張感とかも含めて、状況を理解できている選手がいるかいないか。この感じになるというのが分かっているというか。例えば、ボールを持とうとしたけど相手の勢いがすごくてそれができないと。そのときに「オッケー、じゃあここは耐えようか」と言える選手がピッチの中にいるかどうか。逆に試合の入りから自分たちが主導権を握れたときに「ここで取りに行こう」と中で言える選手がいるかどうか。リーダーシップを取る選手はやっぱり大事で、落ち着いているリーダーがいるか、経験している選手が多いか、そういうチームでないと、とは思いますね。結果的に3回経験することができて、いま振り返ってみると感じることなんですけどね。その意味で言うと、今年のFC東京は森重(真人)や高萩(洋次郎)、(永井)謙佑もいるし、経験のある選手がそろっていますからね。
石川 監督もタイトルを取っていますし。
羽生 (長谷川)健太さんもいますし、状況はそろっている感じがしますね。
――柏レイソルとの決勝は、どんな戦いになると予想しますか。
石川 非常に拮抗した試合になると思いますが、健太さんがよく言うのは、最初から畳みかけたいということですよね。昨シーズンは前半に先制することも多くて、勝利を重ねていけました。今年は先制されて苦しむことがあります。そうはしたくないので、やっぱり決勝も最初からしっかりやり切る、行き切ることを考えて戦うんじゃないかと思います。もちろん簡単ではないですけど、そういう姿勢で臨むのではないかと。僕も2004年がそうだったんですけど、最初から全力でいって、120分持たせようとは思っていませんでした。変にコントロールとかせずに、積極的に行く。当然、コントロールする選手も必要ですけど、とくに若い選手はそういうところを出してほしいですね。09年はヨネが思い切ってプレーして突破口を開きましたが、そういう選手が出てきてほしい。FC東京は最初からガンガン行く、というところを見たいなと。
羽生 そう願いながらも探り合いになるところもあるかもしれないなあ。緊張感のある試合になりそうな気もします。緊張感を楽しむ試合というか。お互いに似ているところもあるチームというふうにも僕は思っていて、行きたいけど行ってミスして裏返されたらどうするのっていう試合になるかもしれない。だから、見ている皆さんには「なんか堅いな」ということではなくて、お互いにナイフを突きつけ合っているような緊張状態を楽しんでほしいですね。
――決勝で期待する選手を挙げるとすると、どうでしょう。
石川 もちろんニュウさんが言ったように経験ある選手には期待するところがあるんですけど、最初にタイトルを取ったときには、僕とか茂庭(照幸)とか、若手がイケイケな感じでやらせてもらっていました。次の09年はヨネがニューヒーロー賞とMVPをダブル受賞しましたし、優勝するには若い選手の力が必要だと思います。今年のチームで言うと、安部柊斗には期待したいですね。守備もできて攻撃にアクセントをつけられて、最近は得点への意欲も見える。周りの空気を読まずに、自分の本能でガッといくようなプレーを見せてほしい。緊張感を破って、試合を動かしてほしいです。なんか、柊斗はイメージできるんですよね。
羽生 確かに確かに。あとは(中村)拓海が出ればね。今回の試合に選ばれるかどうかは分かりませんが、彼は「緊張するときがあるのかな?」と思うくらい、いつも自然体。決勝で活躍してくれたら、スカウトで僕が連れてきた選手なので、僕の評価も上がるし(笑)。自然体のプレーが決勝の舞台で良い方向に出たら面白いと思います。森重とか謙佑とかがちゃんとやってくれるのは当たり前ですけど、そういう経験のある選手とは別のところで、若い選手がどれだけ躍動感もってプレーできるか。ナオが言うように、それはもう一つの重要なポイントかもしれない。
石川 柊斗はいま、22歳。彼もFC東京のアカデミーにいて、前回の優勝を知っていると思うんですよね。09年のときはスタンドに吉本(一謙/元清水エスパルス)がいたと聞いたし、過去の優勝は、タマ(三田啓貴)や(矢島)輝一、(渡辺)剛らアカデミー出身選手は見ていると思うし、「いつか俺たちも優勝するんだ」という思いを抱いてくれていたと思うんですよね。そういう意味で、今回も子どもたちに、目標を持たせるような結果を残してほしい。
羽生 それは期待したい。FC東京の歴史をつくっていくためにも。
取材・構成◎佐藤 景 写真◎山口高明
石川直宏(いしかわ・なおひろ)◎1981年5月12日生まれ、神奈川県出身。横浜FMのアカデミーからトップに昇格。02年にFC東京の期限付きで加わり、スピード豊かなサイドアタッカーとして定位置を確保。翌年、完全移籍を果たし、チームの柱としてプレーするほか、アンダー代表やA代表でも活躍した。以後、17年に引退するまでFC東京の選手であり続け、現在はFC東京クラブコミュニケーターを務める。
羽生直剛(はにゅう・なおたけ)◎1979年12月22日生まれ、千葉県出身。筑波大から千葉に入団し、08年にFC東京に移籍。優れた技術と高い戦術理解度でチームをけん引した。13年シーズンは甲府に期限付き移籍を果たし、翌14年にFC東京に復帰。17年に古巣・千葉に戻り、18年1月に現役を引退して、FC東京の強化部入りし、スカウトを務めた。20年1月にクラブナビゲーターに就任。現在はクラブのPR活動を担っている。