鹿島アントラーズでユースフィジカルアドバイザー兼ヘッドオブコーチングを務める里内猛氏。ヴァンフォーレ甲府でフィットネス・ダイレクターを務めながら2012年より自身がトレーニング用に改良したラダー「タニラダー」を開発し、スポーツにおける正しい体の動かし方を広める活動をする谷真一郎氏。30年を超える仲の2人から見た、コロナ禍を経た今のアカデミー年代とは。

プロの選手指導でも必要と感じた時代の変化への対応

環境の変化による対応は、アカデミー年代だけではない。里内はスタッフとして、谷は選手として、日本代表を経験している。サッカーにおける競技のトップを知る2人。J1リーグで指導経験を持つ2人は、時代の変化に伴うアプローチの変更も経験してきた。

谷 プロの選手を見ているときも、昭和の感覚とのギャップを感じていたこともありました。そこは合わせていかないといけない部分と、合わせてはいけない部分の両方があったように個人的に感じています。大きな視点でいうと、人と人とが上手につながりながらやるべきだと思うんです。ただ今は、そこが分断されて分業制みたいになっている。ピッチ上でも「助けてあげろよ!」と思う部分がよく見られるようになりました。

里内 そういう考えがかなり希薄ですよね。個人主義とはまた違うけれど、そういう感性に対しては鈍くなってきているんじゃないかと感じます。これまでとは全然違う。以前は基本的に自ら主体となっていろいろなことに取り組む選手が多かった。1つ伝えたことに対して、その先も含めて意味を汲み取れる人が多かった。今は言われないとできないし、「言われたからやりました」というだけ。そうではなくて、その次に何がつながっていくのか。そういう発展的な広がりが少ないですね。それはプレー面でもそう。

谷 指導者側も、選手に対して「こうしろ、ああしろ」という戦術的要求がどんどん高まってきています。選手が監督に言われた通りに動かないと試合に使ってもらえないと思っている。そうなると、選手は躍動してこないんですよね。言われたことだけをやろうとしている。自分の意思で自分のやりたいことをやろうとしたときの躍動感がなくなってきて、それがピッチのいたるところで起こって、しかもつながりが希薄。感じるものがどんどんなくなっている現実がありますね。

里内 日常のコミュニケーションでもそう。以前だったら伝えたことに対して、先回りして考えるようなことがあったけれど、今は言われたことしかできなくて、常に指示待ち傾向にある。

谷 指導者もそうですもんね。どんどん分業制になっていて、一昔前まではやっぱりいろいろと話をするし、それこそスタッフみんなで飲みながら話をしたり。そういう場がすごく重要だなと思っていたんですが、今はなくなりましたね。

里内 今は多少コロナ禍も緩和されてきましたが、ここ2、3年は我々も家に帰っての飲みですからね(笑)。

谷 完全に変わってしまいました……。

里内 これは少しずつ時間をかけて取り戻していかないといけないことなんでしょうね。何でもかんでも指導者側が言うだけでは、やっぱり選手は自分で考えてやることができません。特にサッカーという競技は、そういった部分ができないと自分のひらめきとかトライすることができない。そういう姿勢というものを育てていかないといけないでしょうね。

谷 選手との会話のなかで、「こういうときにどうしたらいいんですか」と答えを聞かれることがあるんです。けれど、「お前はどうしたいの?」と。この噛み合わせがなんとも……。「お前の良さはこれだから、こうした方がいいんじゃない?」と言ったりするんですが、「でも、それは言われてないし」と。「え、それをやっていて楽しい?」と聞くと「楽しくないです」と。選手も大変だなぁと思って(苦笑)。

現在、鹿島アントラーズでユースフィジカルアドバイザー兼ヘッドオブコーチングを務める里内猛氏©️KASHIMA ANTLERS