鹿島アントラーズでユースフィジカルアドバイザー兼ヘッドオブコーチングを務める里内猛氏。ヴァンフォーレ甲府でフィットネス・ダイレクターを務めながら2012年より自身がトレーニング用に改良したラダー「タニラダー」を開発し、スポーツにおける正しい体の動かし方を広める活動をする谷真一郎氏。30年を超える仲の2人から見た、コロナ禍を経た今のアカデミー年代とは。

上写真=里内猛氏(左)と谷真一郎氏の対談が実現した(里内氏©️KASHIMA ANTLERS)

変化した“カラダの動き”と“コミュニケーション”

2人の出会いは約30年も前のことになる。当時、日本代表にも選ばれる選手だった谷真一郎と、鹿島アントラーズのフィジカルコーチを務めていた里内猛。その後、それぞれJ1クラブでフィジカルコーチを歴任してきた。数多くの経験を積んだ2人は今、アカデミー年代を指導している。

谷 ご無沙汰しています!

里内 ひさしぶりですね。コロナ禍でなかなか会えなかったけれど、谷くんがYouTubeにアップしていた富士山を背にしたタニラダーの動画は、「いやあ雄大だなあ」と思いながら見させてもらいましたよ(笑)。

谷 あれ1人撮影なんですよ(笑)。時間もありましたし、映像やオンラインでやれるようになったのはコロナ禍に身につけたことです。この3年はいいこともあったけれど、それこそ指導する子どもたちの動きでいうと、影響は大きいなと感じる日々ですね。

里内 そうですね。いろんな意味での弊害を感じるというか……。

谷 いろいろな運動を豊富に経験しながら、だんだん動けるようになっていく時期が破壊されてしまっている。「えー、なんでそういう動きになるの?」とか「どうしてそんな動きになるの?」ということが、ここ数年でものすごく増えました。

里内 講習会とかイベントをやると、実技を見ていて愕然とすることがあるでしょう?

谷 ありますね。まずちゃんと腕を振って歩けない。動きを見て真似をすることができないんです。どうしてそうなるのと、びっくりすることが多い。だいたい小学校の低学年くらいから、見て真似する力があるはずなんですが、そもそも真似できない。どうやって指導すればやれるようになるんだろうと考えることが増えました。これまで通りではダメで、階段を1つ、2つ降りていかないとできるようにはならないのが現状ですね。

里内 僕は今、アントラーズのアカデミーを見させてもらっていますけど、以前はブラジル体操(さまざまなステップをリズミカルに行なう)というウォーミングアップエクササイズがありましたが、今ではそれができない子も多いですからね。例えばスキップとか……。

谷 スキップができない子は本当に多いですね

里内 それとスキップができたとしても、他の動きと組み合わせるとできない子が多くなってきています。

谷 ちょっと前だと、スキップができない子と手をつないで自分の動きを伝えながら伴走するとスキップができるようになる子どもが多かったんです。でも今は、手をつなごうが何をしようができないものはできないと(笑)。

里内 コロナ禍もそうでしょうが、運動を経験する場所や、なんでも危ないからということで避けられてきた。それが原因だと思うんですけどね。

谷 僕自身、その子たちに“取り戻してもらいたい”という意味合いも強くなっている気がします。

里内 体の変化だけでなく、コミュニケーション(人と話すこと)においても大きな変化がありましたね。コロナ禍は黙食とか、あまりしゃべらないようにしなさい、飛沫感染になりますよとか、集団にならないようにとかでコミュニケーションがなかなか取れなくなった。それによって、伝えたいことをどういう手法で伝えればいいのか。その道標みたいなものが変わってきているような気がします。

谷 そこはすごく感じますね。学年が1つ2つ下かなと言う感覚です。コロナ前とコロナ後で、“伝えること”、“会話を成立させること”の能力が停滞している感があります。

里内 全般的に見て、以前よりも幼いように感じるよね。

谷 そうですね。ちょうど小学4年くらいからは、まともに会話をしながらやりとりができたのですが、今はなかなか難しい。あとは聞いても無反応とか。ついつい、「聞いてる?」って確認してしまったり(笑)。

コロナ禍の影響もあってか、子どもたちの運動能力の変化にも2人は注視する