クリスタル・パレスがUEFAカンファレンスリーグで準々決勝に進み、17日の第2レグでフィオレンティーナを下せば、準決勝進出が決まる状況だ。クラブ史上2つ目となる主要タイトル獲得に向けて前進するチームの中心にいるのが、MF鎌田大地だ。現地で取材を続ける山中忍氏が鎌田とクリスタル・パレスの関係を綴る。

上写真=鎌田はクリスタル・パレスに2つ目のタイトルをもたらせるか?(写真◎Getty Images)

ファンの間で通じる「あのパス」

 鎌田大地のパスに、セルハースト・パークの観衆が沸いた。4月9日、クリスタルパレスがホームにフィオレンティーナを迎えた、カンファレンスリーグ(ECL)準々決勝第1レグ(3—0)の前半6分。自陣内での横パスだったのだが、囲まれつつもダイレクトで、フリーになっていた味方に素早く繋ぎ、自らも前を向いて駆け上がりビルドアップを速めた1本は、鎌田の持ち味と同時に、それをパレスのファンが理解するようになっている事実を改めて示していた。

 今季のパレスは、もはや国内でプレミアリーグ残留争いに巻き込まれる心配がなく、欧州戦優先モードへとスイッチが切り替えられている状態だ。参戦は、クラブ史上初。かつては夢にも思わなかった、欧州タイトル獲得に挑むチームの主軸として鎌田がいる。

 移籍2年目の日本代表MFは、欧州での経験値もチーム最高レベルだ。一昨季までのラツィオでもCLに出場し、その前のアイントラハト・フランクフルトではEL王者となってもいる。そもそも、パレスに欧州への切符をもたらした立役者の1人。クラブ史上初の主要タイトル獲得が実現した昨季FAカップ決勝、鎌田は、ファンの間では「あのパス」で通じる、決勝ゴールのきっかけを、体勢を崩しながらもワンタッチで創出したのだった。

 この日も、欧州の一夜にファンの期待を裏切っていない。いつになく、立ち上がりからボールを支配したチームの中盤で、試合をコントロールしながら計52タッチ。その中には、前半31分のチーム2点目を可能にした、相手DF2人の頭越しに届けたボックス内への浮き玉と、90分に駄目を押した3点目のアシストが含まれる。ファン投票で、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出される活躍を見せた。 

 移籍1年目の数カ月とは大違い。鎌田最大の魅力を挙げるとすれば、個人的には「サッカーIQ」の高さになるが、パレスのファンに限らず、この国の観衆には、「賢明」よりも「猛進」を第一に求める傾向がある。加えてパレスは、正直に語ってくれる本人も度々口にしているのだが、「ポゼッションや連係の巧者ではない」チーム。売り手クラブの体質から、毎年のようにキーマンを強豪に引き抜かれる事情もあり、元来はポゼッションサッカーを好むオリバー・グラスナー監督も、一昨季後半の就任から最適解を見つけるまでに時間を要した。

 その間の鎌田は、フランクフルト時代から知る指揮官に、「非常に頭脳的で、どこに、どのように動けば良いかを的確に理解する」選手として重宝されるのだが、10番役と6番役のどちらでも、ファンの評判は芳しくなかった。当人が、「トップ下で入りましたけど、どちらかというと守備の部分を求められている」と説明する試合もあれば、2ボランチの一角に投入されての横バスにホーム慣習から苛立ちの声が上がり、「残り数分で出て(独力で)何かできるタイプでもないし」と認める試合もあった。

 しかし、基本システムが3—4—2—1に落ち着き、相手ボール時にはコンパクトな5-4-1へと速やかに移行し、敵を焦らしながら勝機をものにする型が出来上がると、昨季終盤頃からは良い意味で「非常に嫌な」チームとなった。そのパレスで鎌田も、いわく「元々、そのつもりでここに来た」とする中盤中央が定位置に。ファンの間でも、「ダイチが試合をコントロールしてくれている」と言われ始めた。続く今季は、純然たる先発レギュラーだ。

 それだけに、昨年12月後半から約1カ月半の戦線離脱を余儀なくされたケガ(ハムストリング)は痛かった。より鎌田の密かな重要性が伝わることにはなるのだが、負傷欠場中のリーグ戦8試合で1勝もできなかったチームは、プレミアの欧州出場圏(トップ6)から遠退くことになる。同時期に、今季限りの退任を発表してもいた指揮官が、今季ECL優勝という、来季EL出場権を伴うクラブ史上2つ目の主要タイトル獲得で有終の美を飾る意思を固めても当然だ。グラスナーに求められ、旧知の監督がいるパレスにやって来た鎌田も、同じ心境に違いない。