日本代表は21日、東京・国立競技場で朝鮮民主主義人民共和国(DPRコリア/北朝鮮)と対戦する。北中米ワールドカップのアジア2次予選の3戦目であり、負けられない戦いだ。しかし、相手の情報は極めて少ない。DPRコリア代表は一体、どんなチームなのか?

上写真=J3のFC岐阜でプレーするムン・インジュ(写真◎舩木渉)

ハン・グァンソンにはやはり警戒が必要

 これまで日本代表の対戦相手に関する記事を何度か書いてきたが、今回は過去のものと比べて最も内容の薄いものになってしまうことを最初に謝罪しておきたい。表に出ているDPRコリア代表に関しての情報は極めて限られており、彼らの内情を窺い知ることは極めて難しい。

 日本代表も試合の準備段階でかなり苦労したはずだ。何しろスカウティングに使える映像は昨年11月に行われた北中米ワールドカップアジア2次予選の2試合分しかなく、DPRコリア代表選手のほとんどがプレーしている国内リーグの映像なども世に出回っていない。

 実際、筆者が記事を書くにあたってチェックできたフルマッチ映像は昨年11月のアジア2次予選初戦、シリア代表戦のみだった。

「日本代表はアジアでも非常に強い国ですので、そういった強い国と対戦するために大きな努力を傾けてきました。日本という強いチーム相手にさまざまな準備をしてきましたが、どのような準備をしてきたかという内容についてはこの場で言及しません」

 20日の前日記者会見に出席したDPRコリア代表のシン・ヨンナム監督はこのように述べ、チームに関する詳細な情報を全く語ろうとしなかった。選手たちも前日練習後のミックスゾーンで報道陣の取材に応じることなく、隊列を組んでバスに乗り込んでいく。徹底した情報管理のもと、日本代表戦に臨もうとしている様子だ。

 それでもシリア代表戦の映像から見えてきたものはある。まず、DPRコリア代表が4-1-4-1を基本システムとしていること。そして、試合中に戦い方を変えることも厭わないチームであることだ。

 4年ぶりに国際舞台へと戻ってきたDPRコリア代表は、シリア代表に対して慎重に振る舞った。前半は4-1-4-1でコンパクトな守備ブロックを敷き、相手の攻撃を受け止めるディフェンシブなチームという印象だった。

 ところが37分にシリア代表がPKで先制点を奪うと、DPRコリア代表は前に出る。特に後半は勇敢な姿勢が目立ち、シリア代表をハーフコートに押し込むような展開に。ロングボールを使ってのダイナミックな攻撃を織り交ぜながら、ディフェンスラインから丁寧にパスを繋ぐポゼッションで主導権を握っていく。結局ゴールを奪うまでには至らなかったものの、2019年以来となる国際試合で0-1と堂々たる戦いぶりだった。

 続くミャンマー代表戦は6-1と大勝を収めている。この試合ではジョン・イルグァンがハットトリックを達成し、ユベントス在籍歴を持つハン・グァンソンもゴールネットを揺らした。直前に5-0で勝利していた日本代表よりもミャンマー代表から多くのゴールを奪っており、攻撃力はかなりのものだ。

 3年以上におよぶ消息不明状態から表舞台に返り咲いたハン・グァンソンは、日本代表がDPRコリア代表戦で最も警戒しなければならないタレントの1人だろう。彼はかつてペルージャやカリアリでプレーし、セリエAでゴールも記録するなど将来を有望視されていたストライカー。昨年11月の段階ではコンディションが万全でないように見えたが、20日に現場で確認すると以前よりも体重を増やしてアスリートらしい締まった体つきになっていた。

 また、ミャンマー代表戦でハットトリックを達成したジョン・イルグァンも要注意人物だ。左ウィングに入ると見られる31歳は、かつてスイス1部でプレーした数少ない元海外組でもある。2010年のAFC U-19選手権(現AFC U-19アジアカップ)優勝メンバーの1人で、大会MVPにも輝いた経験もある。その年のAFC年間最優秀ユース選手賞も獲得した。

 現代表選手では最もキャップ数とゴール数が多いジョン・イルグァンは、高いシュート技術やキープ力でサイドに起点を作れる。自らゴールを狙うのはもちろん、ハン・グァンソンへのチャンス供給源としても警戒したい。

 一方、日本代表にとって朗報なのはパク・クァンリョンの不在だ。長くDPRコリア代表のエースを担い、約10年にわたってスイスやオーストラリアでプレーしていたストライカーは今回の日本遠征メンバーに含まれていない。もしDPRコリア国籍選手として初めてUEFAチャンピオンズリーグにも出場した長身ストライカーがいれば、その高さや強さは日本代表にとって大きな脅威になっていたはず。昨年11月のシリア代表戦とミャンマー代表戦はコンディション不良からからいずれも途中出場だったが、特に前者ではパク・クァンリョンの投入からさらに流れが良くなった。

 今年1月から2月にかけて開催されたAFCアジアカップで、日本代表は対戦相手のロングボール戦術に苦戦を強いられた。DPRコリア代表がそれを見て、徹底してロングボールを蹴り込んでくることも考えられる。だが、シン・ヨンナム監督は「明日の試合は流れしだいで戦略に変化がもたらされると思います。ぜひとも明日の試合の流れをご覧いただきたいと思います」と煙に巻き、戦術に関して一切の情報を明かさなかった。

 唯一の海外組としてJ3のFC岐阜から招集されている左サイドバック、ムン・インジュの起用法なども含め、日本代表に対してどんな戦いを披露するか。今夜19時20分から国立競技場で開催される一戦で、ベールに包まれたDPRコリア代表の真の姿が露わになる。

文◎舩木渉