なでしこジャパン(日本女子代表)は3連覇を懸けて女子アジアカップに臨む。団長として開催地インド入りしている佐々木則夫女子委員長に、池田太監督のチームづくりや今大会のポイントを聞いた。2011年に監督としてW杯を制した佐々木委員長が語る日本の女子サッカーの未来とは?

世界の成長と日本のこれから

2011年に監督としてなでしこジャパンを女子ワールドカップ優勝に導く。日本サッカー界にとって初の快挙だった(写真◎Getty Images)

――佐々木委員長が監督としてチームを率いてワールドカップに優勝したのが2011年でした。あれから10年が経ち、東京五輪終了後、高倉麻子前監督は「日本以上に世界の成長速度が速かった」という話をされていました。このことについてはどうお考えですか。

佐々木 僕自身も、2011年に優勝した後、どこのヨーロッパのチームと対戦していても、1点差でしか勝てない状況になっていきました。カナダで行なわれたワールドカップ(2015年)でも1点差ゲームばかりでした。世界の成長を感じたものでした。例えば守備の局面で、今までは縦を切って中へ追い込んで高い位置でボランチのところで奪おうとしてきましたが、相手ボランチの技術が上がり、こちらのプレッシャーをその技術でかいくぐったり、パスをつないでかわしていくようになってきた。そういう状況に直面したときに、ではどうするのか。もっと連係を密にして相手に圧力をかけて奪えるようにしないといけない。ボールをどこで獲るのか。そこの質を高める必要性はあるでしょう。

――いままさに取り組んでいるところでもありますね。女子サッカーを全体でとらえたときに、サッカーのスタイルが変化したと感じますか。

佐々木 一つ言えるとすれば、リアクション的なテンポの速いサッカーからボールをしっかり動かす国が増えたというのはあるでしょう。ですから、それに対して規制をかけたり、圧力をかけたりしてボールの獲りどころをつくっていくことが必要になる。ただ、それに対し日本がリアクションした方がいいという状況になれば、その選択をする必要もある。要するに両方の戦い方が必要で、どちらか一方ということではこれからは勝っていけない。今、池田監督は選手に頭を使うことと、準備段階の動作を細かく要求しています。それは私が監督だったときよりももっと質の高いもの。対応力や柔軟性も含めて、そういう意味では求められる質は高まっています。

――なでしこジャパンが成長や進歩を見せることは、そのまま女子サッカーの発展にもつながるのはないでしょうか。

佐々木 もちろん、そういう部分はあると思います。昨年、WEリーグがスタートし、アカデミー組織がより整備され、環境が徐々に整ってきました。僕はいつも、「U-17、U-20、そしてトップとすべてのワールドカップで優勝しているのは日本しかない。だから日本の女性というのはサッカーをプレーすることにすごく適しているんだ」と断言しているのですが、だからこそもっとこの日本で女子サッカーの文化を広げていきたい。いまはまさに、その重要なタイミングが来ていると感じています。だからこそ僕もこの女子委員長という仕事に就いたと言えます。そうして発展を目指す中で、なでしこジャパンの選手たちは、日本の女子サッカーに光を差す存在でなければいけないと思いますし、そういう存在になれるのはやはり彼女たちだと思っています。

――見る者の心に響くプレーを、女子アジアカップでも期待しています。

佐々木 なでしこジャパンは、状況が厳しくても最後の最後まであきらめずにプレーする、一丸となってやるということも一つの伝統だと思います。その姿勢を示すことで何かを届けられる。今の選手たちの重荷になってはいけませんが、選ばれたからには、なでしこプライドみたいなものはいつも持っていてほしい。池田ジャパンでは新たな選手たちが選出されています。非常に可能性を持った選手たちがたくさんいるので、ぜひみなさんに見ていただき、応援してもらればと思います。よろしくお願いします。

取材・構成◎佐藤 景

Profile◎ささき・のりお/1958年5月24日生まれ、山形県出身。現役引退後、1997年に指導者の道に進み、NTT関東(大宮)などを指導した後、2006年に日本女子代表のコーチ、U-17女子代表監督を務める。その後、U-20女子代表、07年には日本女子代表監督に就任。以降、チームを躍進させ、11年の女子W杯で優勝。12年のロンドン五輪は銀、14年の女子アジア杯に優勝、15年の女子W杯では準優勝に導いた。16年に退任し、WEリーグ準備室長、大宮VENTUS総監督、大宮アルディージャ監督を経て、昨年11月にJFAの女子委員長に就任した。