5月10日の明治安田J1リーグ第16節で、FC東京がヴィッセル神戸から劇的な勝利を挙げた。0-0のまま進んだ90+13分にマルセロ・ヒアンがPKを決めたのだが、そのきっかけになったのが波多野豪が素早く蹴ったゴールキック。今季初出場の守護神がいつものように明るく楽しくその瞬間を振り返った。

上写真=アカデミー出身の守護神・波多野豪がサポーターとともに喜びを分かち合った(写真◎J.LEAGUE)

■2025年5月10日 J1第16節(観衆:24,837人@味スタ)
FC東京 1-0 神戸
得点:(F)マルセロ・ヒアン

味スタで人生初の「シャー!」

 0-0のまま進んだ90+8分、ヴィッセル神戸の攻撃をしのいで得たゴールキック。 FC東京のGK波多野豪は迷いなく素早く前線に蹴り込んだ。

「試合前からテルくんに、途中から入ったら相手のキーパーに向かって思いっきり蹴るんで、走っていてくださいって言ってたんです」

 その言葉が現実になった。仲川輝人はそのまま抜け出して左足でシュート、こぼれたところに安斎颯馬が詰めていて、折り返したボールが神戸のDF本多勇喜の手に当たった。主審によるオンフィールドレビューの結果、ハンドのファウルでPKが与えられた。これをマルセロ・ヒアンが決めて、90+13分についに先制。そのまま勝ちきった。

「テルくんが決めてくれればな!」

 そうやって仲川にちょっかいを出すあたりは、まさに陽気な波多野ならではだが、確かに仲川が決めていれば波多野にアシストがついていた。松橋力蔵監督からはGKでもアシストを常に狙っていくことを求められていて、それに応えた。

「キャンプのときにアシストを目指してくれという話を聞いて、それからアシストの数字をつけたいなと思っていました。今後もそこは狙い続けていきたいなと思います」

 もちろん、「本職」のゴールキーピングも安定していた。神戸がどんどんゴール前に送り込んでくるボールにも冷静に対処し、チームで一番の198センチという長身を生かしてハイボールも難なくその手に収め、クリーンシートを達成した。

 まもなく27歳を迎える守護神は、これがリーグ戦で今季初出場だった。

「今日まで正直、とても苦しい日々を過ごしてきていました。今週、自分が出るかもしれないとなったときにはもう絶対勝ってやろうという気持ちでいました」

 昨年は開幕から出場を重ね、計13試合に出場したが、退場が2度もあるなど、ポジションを失って難しい1年になった。そして今季は、リーグ戦ではベンチを温める日々。

「もちろん試合に出るつもりで、シーズンを迎える前から準備してきましたし、試合に出たい気持ちもありながら、日々の練習も過ごしてきました。そういった準備を怠ることなく、大志(野澤大志ブランドン)のサポートもしながらできていたので、いい準備ができたかな」

 今年は野澤がレギュラーで波多野はセカンドキーパー。その立場に甘んじることなく、今日のこの日のために自分を高めていた。そして、最後に真っ先に走っていったのは野澤のところ。

「誰が出ても東京のゴールを守れるように準備していますし、いままでは大志が守ってくれてましたけれども、いいライバル関係だと思います。東京のキーパーはこうあるべきだとしっかり示したかったから、できてよかったです」

 高め合う存在が間近にいるのは幸せなことで、しかも今年のGK陣はすべてアカデミー出身者。波多野は年長者としてその先頭を走る立場だ。

「東京のキーパーはみんなユース出身者ですし、いまの小さい子が東京のゴールキーパーを目指していて、僕たちが目指してもらえる立場だと思うので、それをピッチで表現できたのでよかったなと」

 そんな、根っからの青赤の男がついに、試合後にサポーターとともに歓喜の雄叫び「シャー!」で祝うことができた。

「久々に味スタで波多野コールを聞けたのでうれしかったですし、皆さんと勝利を分かち合いたかった。それで、人生で初めて味スタで『シャー!』ができたのでよかったです。ノリノリでした!」

 最高の勝利も、2025年の波多野にとってこれはまだ始まり。これからも野澤たち「後輩」とともに成長を目指す。

「もっともっといい競争ができれば、質の高い競争ができれば、と思っているので、明日はリカバリーじゃなくて、もう練習したい!」