首位の横浜F・マリノスに残り5試合で勝ち点5差という場所から、逆転で3連覇を狙う川崎フロンターレ。その将である鬼木達監督は、魅力的な攻撃サッカーと勝負への執着心の両方を表現している。その源流はどこにあるのか。ロングインタビューでその一端を探っていく。

「正解」こそしっかりとした言葉で

鬼木達監督がロングインタビューで、自身のポリシーを明かした(写真提供◎KAWASAKI FRONTALE)

――鬼木監督の経歴を振り返ると、その大転換期とも言える風間さんとの出会いの前に、現役を引退されてから育成部門で腕を磨いてきたことによって、広くて堅牢な土台ができていたことが大きかったのではないかと想像するのですが、いかがでしょうか。

鬼木監督 それはありますね。さらにもっと前から、順番というかタイミングというものが良かったと思っています。小さなころからずっとメンタルが重要だと思って過ごしてきて、高校でもハードな環境の中で育ててもらい、鹿島でもジーコさんがいて、あれだけうまい選手でも結局、気持ちなんだということを学ばせてもらいました。ブラジル代表だったジョルジーニョもレオナルドも、ジーコさんには気持ちの部分で怒られていましたから。

 さらに、ジーコさんは本当にうまいんだけど、特別なことはしていないんです。基本技術の精度が本当に高かった。だから、指導者になってからはそれを伝えていくべきだと考えてきました。自分もプロとしてその部分を高めようとしてきましたし、蹴ること、止めることの重要性を改めてきちんと伝えなければいけないと。

 そして、育成だろうがトッププロだろうが、気持ちをしっかり持って、人の話をしっかり聞いて、自分で答えを導き出していく人間性が重要だと思ってきました。それは自分が小さなころからずっと学んだことで、それがあるからこそ、面白い考えのサッカーに出会った刺激の中から、いまこのチームにどの部分が必要なのかを考えて生かすことができるようになったと思います。

――少し脱線しますが、ジーコさんは勝負事はじゃんけんであっても負けることをよしとせず、どんなことでも勝つ人なんだけれど、それは勝つまでやめないからだ、と関係者の方に聞いたことがあって、深い話だな、と。

鬼木監督 そうなんです。スタッフが入ったレクリエーションゲームでも、例えばキーパーが経験者ではない人であってもジーコさんは強烈なシュートを決めて、大喜びするんです。勝負に対して常に100パーセント。そこで気づかされましたよね。そうやって、勝負にこだわるから勝てるんだって。

 もちろん、自分が監督になったいまはまた違う感覚もあって、負けた次の日に選手がこだわりすぎて落ち込んでいるよりも、笑顔でいることはしっかり切り替えた証拠であって、そのほうが次へのパワーが出るからいいことだと感じるようにもなりました。選手時代はそんなことを思わなかったけれど(笑)。

――監督になると変わるものなんですね(笑)。その「変わる」ということで言えば、さまざまなインプットに積極的だとおっしゃっていました。サッカーの分野に限らずに、自分の中に情報や感性を取り込むことについて、なにか意識していることはあるのでしょうか。

鬼木監督 決まりはないんですよね。例えば本を選ぶときで言えば、著者の方が面白そうな人だな、とか、興味あるジャンルだろうな、とか、なんとなく手にとって見てみて、でも、ものすごく文字が詰まっていると、これはいまじゃないな、とか、雰囲気で決めていることも多いですね(笑)。

――そんなインプットの意欲が、鬼木監督の優れたマネジメントの力になっているのだと思います。例えば、選手もスタッフもファン・サポーターもメディアもみんな、「オニさん」と呼んでいて、それを鬼木監督自身が自然に受け入れることも、実はマネジメントの一つの形なのではないでしょうか。普段の会見の場では「意識的に行っているマネジメント」の手法を聞いていますが、今日はなかなか聞けない、そんな「無意識のマネジメント」について教えていただきたいんです。

鬼木監督 自分で意識していないことを答えるのって難しいですね(笑)。でも、相手の立場に立って物事を考えるという根本は、わざわざ意識することなく普通にやっているんじゃないかな。

――まさにそこに通じることですが、マネジメント術の中で「言葉」はとても重要で、鬼木監督の発言からは、正しいことと正しくないことの基準が曖昧ではなく、はっきりしているので、選手やファン・サポーターにまっすぐに届く印象があるんです。ごまかしていない、といいますか。

鬼木監督 それは自分の中ですごくあります。正しいと思ったことは言葉にしていきたいんです。例えば、これを言ったら選手やコーチがわずらわしいと思うかもしれないな、というようなことも、必要だと思えばはっきり言います。言わないと気づいてもらえないこともありますし、それを曖昧にしておくと問題が大きくなるかもしれません。できるだけ早く対処したいと思うタイプですね。

――正義感をそのまま投げつけるのではなくて、常に選択肢を含めながら提示しているというイメージです。

鬼木監督 監督という立場になると、ともすれば自分の言葉がなにかを強制していると受け止められるかもしれないんですけど、常にいろいろな意見があるのは当たり前で、自分の思いもそのうちの一つだという気持ちで伝えています。すべてに答えがあるわけではないし、あったとしても強く伝えすぎないようにもしています。

 人って、正しいと思ったことを伝えようとすると、なぜか口調が強くなるじゃないですか。自信があるから。でも、それがプラスになるときもあればそうではないときもあって、だから、正解だと思っているときこそ、しっかりとした言葉で伝えるようにしていますね。