首位の横浜F・マリノスに残り5試合で勝ち点5差という場所から、逆転で3連覇を狙う川崎フロンターレ。その将である鬼木達監督は、魅力的な攻撃サッカーと勝負への執着心の両方を表現している。その源流はどこにあるのか。ロングインタビューでその一端を探っていく。

上写真=鬼木達監督の内面に迫るインタビュー。「勝負師」の心をのぞいた(写真◎J.LEAGUE)

鹿島アントラーズと風間八宏さん

――今回は「勝負師・鬼木達監督の内面」をテーマに聞かせてください。きっかけは、8月27日のJ1第27節鹿島アントラーズ戦でした。90分に山村和也選手を投入し、5バックにしてまで2-1で逃げきっています。これまで見たことのないような采配からは、試合に勝つことに強烈にこだわる「勝負師」の一面を色濃く示していると感じたからです。

鬼木達監督 いつも最初に考えるのは、単純に「勝つための最善」です。試合前日に、ヤマ(山村)を入れて守りきる対応は準備していました。ただし、4バックで、でした。でもそこでしっくりこないというか、彼を生かしきれていない思いがあったんです。練習でやったことのないことは試合ではやらない、という考えと、でもそのほうが結果につながると思えば、やらないで後悔したくない、という気持ちがありました。

 実際に試合で研ぎ澄まされていくと、状況を冷静に判断して、いいと思うほうを決断できます。そこであの試合では、5バックを選んだわけです。順番としては、勝つためにどうするか。それが出たのだと思います。もちろん、いつも言っているように「魅力あるサッカー」という目指すものはありますけれど、でも、勝利ということを逃さないことは意識しています。

――理想があって現実があって、その両方を勝ち取るための采配に見えました。その「勝つための最善」という考えは、どんなふうにして培われたのでしょうか。

鬼木監督 理想と現実は同じでありたいと思っているし、それが一番勝利に近づくと思っています。監督になったときから、勝負というものを置いてサッカーを語らないようにしています。選手にも最初に言ったのは、攻撃的なチームだけれど攻撃だけではダメだし、逆に守備だけでもいけなくて、両方ができなければならない、ということでした。魅力的なサッカーをしていても、最後に本当にファン・サポーターの皆さんを喜ばせることはできているのか、と考えたときに、勝負を抜きにして「楽しいサッカー」と言えるのだろうか。勝った上でワクワクしなければいけないのではないか。

 このチームは楽しいサッカーをすると言われて自己満足をしている部分と、シルバーコレクターと言われていて悔しい思いをしている部分もあり、どちらにしてもこのまま終わっていいチームではないという気持ちが本当に強かったんです。自分が監督をやるなら、勝負にこだわろうと。そうでなければ、そもそも戦いではない、という思いもありました。

――常に「強気」「勝負」と口にすることがその表れだと感じますが、その源流はどこにあるのでしょうか。

鬼木監督 強気でいるつもりでも、自分より強気な人には勝てなかった。そういう経験があったからでしょうか。最終的にはプロになってからのことにはなりますが、自信を持ってできているときとそうでないときのパフォーマンスが大きく違ってしまって、すぐにうまくはならないにしても、逆にすぐに下手になるわけもないのに、どうしてこんなに波があるのか、と。そこはメンタルなんだな、と改めてですけれど気づくわけです。

 鹿島でプロになって気づかされることは本当に多かったですね。ものすごく強気な集団ですから、それで相手を圧倒してしまうわけです。その様子を間近で見ていると、強気でいることが相手に影響を与え、自分たちを奮起させるものだと実感するわけです。そこはいまでも自分に言い聞かせている部分ですし、だから選手にも常に自分自身の力を信じてほしいと言っています。

――当時の鹿島は本当に個性の強い集団でした。そこで感化されたものは大きいわけですね。

鬼木監督 それはもう、大きいですね。もう少しさかのぼると、小学生のときに全国大会に出て、自分では「うまい系」の選手だと思っていたんですけど、全国に行くと足先だけでは通用しなかった。当時の文集にもそういうことを書いた記憶があるぐらいの出来事でした。その感じがプロになってまたやってきて、鹿島に入って1週間もすると、もうここでは相当覚悟を決めないとやっていけないと打ちのめされました。

 当時の鹿島も、いわゆるテクニック的にものすごく高い集団ではなかったと思いますが、基本技術はものすごくしっかりしていて、足先では通用しないと感じさせられました。どんなにうまいプロ選手でも、気持ちの面で上回られてしまえば技術を発揮できないし、負けず嫌いで向上心がある人が上に行く姿を目の前で見てきました。そこで得たものはいまに生きていますね。

――そんな鹿島で始まった現役生活はハードなタックルで鳴らすボランチとしての印象が強くて、守備に強みを持つその「鬼木選手」が、いまでは誰もがうらやむ攻撃サッカーをピッチで展開している、というギャップも非常に興味深いところです。

鬼木監督 自分の中では現役の頃からいつかは指導者になりたいとは思っていましたけど、どういうサッカーをしたいのか、というと、ずっとぼやけていたというか、はっきりと表現できるものがありませんでした。でも、フロンターレという攻撃にフォーカスされるチームに移籍して、その面白さ、サッカーの喜び、楽しさ、ゴールの歓喜を感じたんです。さらに風間八宏さんに出会って、サッカーの見方が変わりましたよね。

――やはり風間さんからの影響は大きいのですね。

鬼木監督 サッカー観という点で本当に大きいと思います。自分のそれまでの感覚とはまったく別のものでした。サッカーは勝負事であると思う根幹は変わらないにしても、風間さんに会ってサッカーの魅力を感じました。そこで大きく変わったのは間違いありません。

 自分が培ってきたのは、どちらかというと「頑張ってなんとかする」というスタイルでした。なので、頑張らない、頑張れないのは好きではありません。でも、頑張っているだけでは追いつくことのできない人たちがたくさんいて、頑張るだけでは届かない場所があった。だからいま、選手には頑張ることの重要性と、それだけではなくて、サッカーを表現するための技術と頭も鍛えてほしいと思っています。サッカーの一番の魅力であるゴールをたくさん決めるために、チームとして面白いサッカーを見せたいです。つまりは、みんなで喜び合いたいんですよ。