古今東西のサッカーの話題を取り上げ、対話形式で議論を深める企画を今回からスタートする。第1回はアルベル監督を迎え、昨年までのカウンター主体のスタイルから一変したFC東京の戦いぶりについて考えてみたい。改革元年、彼らが直面しているのは想定内の現実であり、『生みの苦しみ』なのか。あるいは理想へ固執するがゆえの結果なのか。サッカージャーナリストの北條聡氏に現状について聞いた。

3枚回しの構成は2CB+誰?

複数のポジションでチームを機能させている渡邊凌磨(写真◎J.LEAGUE)

ーー最終ラインからの組み立ての部分ですか。

北條 そうです。3枚回しが基本ですけど、FC東京はセンターバック(CB)の2人とその前のアンカーで基本はボールを回します。それに対して緻密にプレスをかけてガチっとハメてくるチームはJ1では少ないけれど、例えば鳥栖はバチっとハメてきた。通常は3-4-2-1ですが、FC東京戦は中盤をダイヤモンド型にする4-4-2だった。トップ下がアンカーの青木を見張り、2トップがCBにぶつかりにいく。そしてインサイドハーフがサイドバックにいくという形。
 そういうチームとやるときは、後ろに誰かが下りて3枚で回して、とやるわけですが、でもその形がなかなかできなかった。鳥栖戦のあとから、少しずつやろうとしていると映りますが、もっと早い段階でできなかったかな、とは思いました。

ーーアンカーが1列下りてビルドアップに加わった場合、その後に他の選手がどう動くのかも重要になります。

北條 その通りで、アンカーが下がったら、インサイドハーフの安部柊斗、松木玖生のどちらかがそのスペースに入らないとボールは回せない。それは基本的な動きですが、シーズン前半はまだまだスムーズではなかったですよね。何度か下がる時もありましたが、そうすると前の人数が足りなくなってしまう。例えば、ペップやクライフのバルサなら、アンカーは基本的には落ちない。あの位置は空けなかった。じゃあどうするかと言えば、片方のサイドバックが下がって2CBと3人で回す。

ーー日本代表が4-3-3を最初に採用したオーストラリア戦でインサイドハーフの田中碧と守田英正がアンカーのポジションまで落ちてきて、また高い位置に上がってというプレーを繰り返し、とくに田中の消耗度が激しくて試合の終盤に電池切れになったこともありました。まさにインサイドハーフとアンカーの関係、最終ラインとアンカーの関係が整理されていなかったから起きた事象だったと思います。

北條 攻撃面を考えれば、当然、インサイドハーフにはなるべく高い位置でボールを受けてほしいところでしょう。そうすると、一番簡単なのは、中盤の選手を最終ラインに組み込まずに相手のプレッシャーを外し、ボールを回せる形、つまり一方のサイドバックと2CBで3枚になって回す形になる。

ーー新潟時代のアルベル監督のチームはどういうビルドアップを?

北條 新潟時代はどんどん後ろに下がって回すという感じだった。そのぶん、中盤の数が減っていく。(4-2-3-1の)ドイスボランチの一人が下がって真ん中に1人は残るけれど、トップ下の1人と縦に2人並ぶだけで、サイドバックが上がっていかないと人が足りない状況がよくあった。
 攻めで肝心なバイタルエリアのところに人を置きたいのに、どんどん下がってしまったら、攻める際に人が足りなくなる。組み立ての局面で人が下ります、前に人がいませんという状況に陥って失敗しているチームが、今季のJ2のチームにもいくつかありました。いなくなったところに代わりに誰が入っていくのかをデザインしていればいいですけど、それがないと、結局ボールは回らず、攻撃が行き詰まる。大分は今、3-4-2-1に落ち着いていますが、序盤に苦しんだ要因の一つだったと思います。

ーーそれはまず、理想の形を優先した結果ということですね。

北條 すべてがそうではありませんが、一部のチームはそうだったと思います。ヨーロッパのトップどころの監督は、自分の理想があって、それに合う選手を獲得できる環境にある。でも、Jリーグにそんな環境にある監督はほとんどいません。ベストプレーヤーを次から次に獲れるような環境ではないでしょう。形から入っても、選手の適正とは異なり、なおかつデザインもしっかりできていない。そうなると、苦しい状況に陥ってしまう。

ーーそういう背景や現実を踏まえた上でも、今年のFC東京はまずは現有戦力を中心にトライしてみようという考えがあったように思います。その結果としてシーズンの前半戦は改革1年目の難しさも見えたという。

北條 それに加えてもう一つ、FC東京が新たなスタイルを積み上げていく上で、今季は昨季までと大きく事情が変わったということも大きかったと思います。インテンシティが高いチームがJ1に一気に増えたから。

ーーどういうことでしょう。

北條 ここ3、4年、スプリント数は横浜FMがずっと1位でした。それが今年は3位とか4位に後退している。代わって鳥栖、広島、京都が上位になっています。横浜FMの強度が大きく落ちたわけではないので、それだけインテンシティが高いチームが増えたということです。つまり、ボールを回すチームが苦戦するような状況になっているとも言えます。だから今年からボールを回すことに舵を切ったFC東京にとっては、難しいシーズンになっているわけです。
 それでも序盤はロングボールを使ったりしてFC東京はうまくやっていた。それは選手の個々の能力にもよると思うけれど、「つなぎたいです」→「前からプレスに来られました」→「でもつなぎました」→「ボールを取られました」→「カウンターを受けました」となるところを、森重真人や木本恭生が一気にライン裏にボールを入れて、リスクを回避して点を取るケースもありました。京都戦が顕著ですが、そういう判断ができていた。そこは理想と現実の折り合いをつけていたように見えます。

ーー強度の高い鳥栖には2敗、でも広島には2勝。そのあたりは評価が分かれるところですが、アルベル監督はより安定してポイントを奪っていくためにスタイルを変更すると、シーズン前から繰り返し話していました。

北條 目指すところ、掲げているものは、はっきりしていると思います。

ーーその目指すチームとなるために、ここまでの戦いを見て、何か積み上げは感じられますか。

北條 先ほどのビルドアップの話をもう少しすると、アンカーが2CBの間に落ちようが(中落ち)、2CBの外側に落ちようが、それ自体は問題ではなくて、落ちたときにインサイドハーフがアンカーの位置に連動して下がり、そしてまたインサイドハーフが下がって手薄になったバイタルエリアにウイングが絞ってくる、というところまでがセットでデザインされていればいいんです。でも、シーズン前半戦はあまり整理されているようには見えなかった。もちろんこれはケースバイケースで、先ほど話したようにアンカーが落ちないでビルドアップする形もありますよというのが理想だし、トップレベルではそれが当たり前。積み上げで言えば、アルベル監督が取り組んでいて今はそれができないのか、そもそも取り組んでいないのかで評価も変わってくると思いますが、1年目の難しさに直面しているとは感じます。

ーーどちらかと言えばシーズン前半は改革の難しさを感じる試合の方が多かったと思います。

北條 例えば、2019年に横浜FMを率いてリーグ優勝したアンジェ・ポステコグルー監督も1年目は12位。大きくチームスタイルを変えるには相応の時間が必要なのは間違いないでしょう。そう考えれば苦労はある程度、つきものとも言えます。

ーー例えば広島時代のミシャ監督のあとの森保一監督、川崎Fの風間八宏監督のあとの鬼木達監督のように、継続の中で整理、肉付けをしていくなら、1年目から結果を出すこともあり得るのでしょうが……。

北條 FC東京は、そういう形ではないですからね。1年目からものすごく大金をかけて理想を実現するために選手をかき集めてスタートを切れるなら分かりますけど、そうではないし、現状は想定内のところもあるでしょう。現在順位は7位で、変革1年目でしっかり勝ち点を稼いでいるとも言えると思います。

ーーではシーズン後半、ここから期待するのはどういうところでしょう。

北條 ここまで話した『幅をどう取るか』についてと、『後ろの回し方』についてはより整理されることを期待したいですし、シーズンの折り返し以降はワンタッチパスが増えてきているように感じるので、その精度を上げていければと思っています。ポジティブに見ればワンタッチでつながるのは選手の距離が良くなっているからこそだし、選手間で距離をつかめてきたのではないかと。今の時代、ワンタッチパスを織り交ぜないとプレスをかいくぐれないものですが、先ほども言ったように今年は前からプレッシャーかけられるチームが増えている。その中でFC東京がどうやってそれをかいくぐって、ビルドアップするのかに注目したい。チームとして上積みできているのかどうか、進む方向が正しいか否かは、このシーズン後半戦の戦いぶりで、よりはっきりしてくると思っています。

■FC東京の今後の試合日程(8月・9月分)
・8月7日 J1第24節『FC東京vs清水』(@味スタ/18時)
・8月13日 J1第25節『FC東京vsC大阪』(@味スタ/19時)
・8月27日 J1第27節『柏vsFC東京』(@三協F柏/19時)
・9月3日 J1第28節『FC東京vs横浜FM』(@味スタ/19時)
・9月10日 J1第29節『G大阪vsFC東京』(@パナスタ/19時)
・9月14日 J1第26節『神戸vsFC東京』(@ノエスタ/19時)
・9月18日 J1第30節『FC東京vs京都』(@国立/19時)