この連載では2020年のJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく。連載第7回目はJ1で再開後6戦負けなしの北海道コンサドーレ札幌を取り上げる。彼らが現在、実践しているゲームモデルは必見だ。

上写真=横浜FM戦の勝利の立役者となった荒野と駒井(写真◎CONSADOLE/J.LEAGUE)

文◎北條 聡 写真◎CONSADOLE/J.LEAGUE

際立つ全員守備の手法

 北の刺客が凄い。

 ミシャ・ペトロヴィッチ監督率いる北海道コンサドーレ札幌だ。J1リーグ再開後は6戦して3勝3分けの無敗。いや、凄いのは数字(戦績)じゃない。彼らの実践するゲームモデル自体がえらいことになっている。

 ミシャ式トータルフットボールだ。

 何しろ、ポジションが固定されているのはGKの菅野孝憲だけ。バックスも機に乗じてガンガン攻め上がる。最後尾から広角にパスを繰り出し、ビルドアップの基点となる宮澤裕樹までが前方に進出していく。その姿はまるで古き良きリベロのようだ。とにかく、試合を通じて、ひたすら後方に待機する守備者が1人もいないのである。

 まさに全員攻撃だ。

 いや、それ自体に特段の目新しさはない。ミシャ式とはそういうモノ――という認識を多くの人が持っている。これまで率いてきたサンフレッチェ広島や浦和レッズでもそうだったからだ。

 際立つのは全員守備の手法だろう。

 一人一殺のマンツーマン方式だ。守りに回ると各々が素早く「人」をつかまえ、ボールを刈り取っていく。Jリーグではめったにお目にかかれないやり方である。成功例はあのイビチャ・オシムが指揮を執った時代のジェフ市原(現千葉)くらいだろう。思えばオシムがシュトルム・グラーツ(オーストリア)の監督時代に腹心(アシスタントコーチ)として仕えたのがミシャだった。

 それにしてもなぜ、マンツーマンなのか。

 ボールポゼッションをゲームモデルの柱に据えるチームへの対抗策だろう。今季のJ1リーグでもポゼッション志向の強いチームが増加の一途。まさに猫も杓子も――という感じである。

 2017、2018年のJ1リーグを連覇した川崎フロンターレはもとより、昨季のJ1王者である横浜F・マリノスも天皇杯を制したヴィッセル神戸も典型的なポゼッション型のチームだ。横浜FMと神戸に至っては昨今流行りのポジショナルプレーを実装。圧倒的なボールゼッションを背景に他のライバルクラブを出し抜いた。

 守備側は狭い囲いを築いても、懸命にプレスをかけても、あっさりボールを逃がされてしまう。ゾーナル・ディフェンスには常に「隙間」があるからだ。川崎Fや横浜FMや神戸はその隙間に人を潜り込ませて巧みにパスをつないでいく。相手はひたすら守りに追われるわけだ。

 また、ピッチを広く使って攻めるチームが増えたのも、守備側にとっては悩ましい問題だろう。狭い囲いを維持し、攻撃側を片方のサイドに追い込んでも、スペースの広がる逆サイドへボールを逃がされたら元の木阿弥である。

 だが、マンツーマンなら違う。

 端から人に張りつくのだから、隙間もへったくれもない。各々の立ち位置を変えて守備側を惑わすポジショナルプレーも効力を失う。どこへ動いても背後に敵が張りついているからである。そんな状態の味方にはさすがにパスは出しにくい。

1対1の争いで負けない限り、マンツーマンは攻撃側のポゼッションを許さない有効な手立てになる。反面、1対1で負ければ、順番にマークがズレてドミノ倒しが起こりかねない。今季の開幕に向けて対人守備の強化を重ねてきたのも、そうしたリスクを最小限に抑えるためだ。

 ただ、リーグ戦の再開直後からマンツーマンが機能していたわけではない。各選手のコンディションのバラつきや高温多湿の影響もあり、出足が鈍く、人をつかまえ損ねるケースが少なくなかった。ようやく機能しはじめたのは本拠地の札幌に戻ってからだろう。3-1のスコアで快勝した7節の横浜FM戦はその好例だ。
 
 相手のビルドアップの局面で前線から漏れなく1対1でハメ込み、敵のパスコースをことごとく消してしまった。泡を食ったマリノスのバックスは後ろでつなぐのがやっと。強引に狙った縦パスは次々とからめ取られた。それこそミシャの企みどおりに事が運んだわけである。

 札幌の布陣は3-1-4-2だった。

 つまり相手の布陣(=4-2-1-3)を反転させたものだ。ハイプレスの先鋒は駒井善成とチャナティップ。彼らが2人のセンターバックに圧力をかけ、これを合図に残りの8人が次々と1対1に持ち込んでいく。中盤では中野嘉大と荒野拓馬がそれぞれ喜田拓也と扇原貴宏のダブル・ピボットをつかまえ、その後方では深井一希がトップ下の天野純に張りついた。
 
 そして、右のウイングバックを担うルーカスが左サイドバックのティーラトンをロックしてしまう。ビルドアップの基点である喜田が、扇原が、ティーラトンがどこに立ち位置を取ろうが関係ない。一人一殺の守備戦術の前ではJ1王者自慢のポジショナルプレーも無力というわけだ。