開幕戦を終えて中断中のJリーグだが、この連載では再開後のリーグ戦でさらなる活躍が期待される各クラブの注目選手を紹介していく。連載第18回は、ヴィッセル神戸のFW古橋亨梧について綴る。

上写真=横浜FCとの開幕戦で早速1ゴールを決めた古橋(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

下剋上のアイコン

 並み居るライバルを押しのけ、ついに堂々たる主役へ。今季はそんな筋書きをたどる1年になるかもしれない。ヴィッセル神戸の古橋亨梧だ。

 何しろ、小賢しいウイルスに水を差されるまでは日の出の勢い。J1王者の横浜F・マリノスを破ったスーパーカップ(FUJI ZEROX SUPER CUP)を含めると、公式戦で4戦連発だ。新しい大砲ドウグラスもかすむほどの決め手になっていた。

 しかも、ゴールの中身は多岐にわたる。守り手に圧力をかけ、バックパスをさらっての流し込みから、豪快ミドル、クロスへの飛び込み、さらに絶妙のスルーパスを呼び込む裏抜け――。ここにヘッドによる一撃でも加わったら、立派なゴールコレクションが出来上がるだろう。

 それにしても、開幕戦の同点ゴールは見事だった。敵と味方が入り乱れたボックス内でライン裏に走り、セルジ・サンペールのスルーパスを呼び込みつつ、前に出てくるGKの動きを間接視野で捕らえると、左足の繊細なタッチで突進をするりとかわし、楽々とネットを揺らしてみせた。

 ワンタッチを挟まずにシュートを打てば、あえなくGK直撃――といった場面だ。そこで瞬時に選択を変える判断と、ボールを手なずける技術が光った。それも打ち急ぎの「しくじり」を回避するだけの余裕と落ち着き、冷静さがあるからだろう。もっと言うなら、こつこつと成功体験を積み上げることで手にした自信の成せる業か。

 自ら「雑草魂」を口にする下剋上のアイコン。全国的に無名の存在からJ1戦士へのし上がった叩き上げが、いまや御大アンドレス・イニエスタから才能を認められ、日本代表に招集されるまでになった。そんな痛快至極の成功物語もここからがクライマックスだろう。

 昨季は10得点8アシスト。一介の選手なら上々の出来映えとも言えるが、古橋の潜在能力はこんなものではないはずだ。J1でも屈指の韋駄天。しかも「止める・蹴る・運ぶ」の基盤があるうえに、前線のあらゆるポジションに適応する汎用性の高さと個人戦術を漏れなく備え、守りに回ったときのハードワークも人一倍やってのける。そして、肝心要の得点力まであるのだ。

 これだけ条件のそろったアタッカーなど、代表クラスでもそうはいない。また、この人には攻撃を担う若いタレント群に乏しい強みがある。徹底した「裏志向」だ。速攻、遅攻を問わず、隙あらばライン裏でパスを受けようと企んでいる。そうした姿勢は昨季限りで引退したダビド・ビジャとそっくりだろう。