現在、Jリーグは開幕戦を終えて中断中だが、この連載では再開後のリーグ戦で、さらなる活躍が期待される各クラブの注目選手を紹介していく。連載第15回は、ベガルタ仙台のMF佐々木匠を取り上げる。

上写真=今季の公式戦2試合に先発している佐々木匠(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

軽業師のようなプレー

 ベガルタ仙台の新たな旗頭へ――。そのとば口に立つ若者が現れた。佐々木匠、21歳だ。サガン鳥栖へ移籍した重鎮リャン・ヨンギ(梁勇基)と入れ代わるように古巣へ舞い戻り、自らの値打ちをアピールしつつある。

 2020年は「リャンのいないベガルタ」の始まりだ。仙台一筋16年。リャンの前にリャンはなく、リャンの後にリャンはなし――という偉大な旗頭を失ったところに、アカデミー育ちの有望株が2年半の武者修行を終えて戻ってきたとあっては期待せずにはいられない。

 おそらく今季から手綱を握る木山隆之新監督もその一人だろう。実際、ルヴァンカップの初戦でさっそくスタメンに抜擢し、続くJ1開幕戦でも佐々木の名前を先発リストに書き込んだ。

 前者は2トップの一角、後者は左の翼と役回りは違ったが、攻撃にひねりを加える技術と創造力への期待がありありとうかがえた。

 公称166センチの小兵。そこに繊細なタッチと素早い身のこなしを絡め、敵が群がる密集地帯をアクロバットにかいくぐっていく。その踊るような姿はまるで軽業師のようだ。ボールに触れるたびに、予測のつかないことをやりそうな雰囲気が漂ってくる。

 ただ、リャンとは似ているようで似ていない。先達はどちらかと言えば、司令塔の色合いが濃い人だ。一方の佐々木はより敵のゴールに近い場所で力を発揮する仕掛人だろう。

 想像の世界で現在の2人を同じピッチに立たせれば、互いの持ち味を引き出し合う最高のパートナーになりそうだが。

 そんな2人にも、これという共通点があるような気がする。小さな体から発散される負けん気の強さと、球際勝負で敵に体ごと食らいつくガッツだ。

 だからリャンという人はボールがないときにも頼りになる人だった。佐々木は先人よりもひと回り体が小さく、当たり負けしやすいが、それでもボールの持ち手に果敢に挑んでいく。

 実際、開幕戦でも印象深い場面があった。自陣のボックス近辺でシマオ・マテをはがしかけたマテウスに「幅寄せ」を見舞い、地面を這わせてボールを奪っている。また、ファウルにはなったが、前田直輝の鋭い仕掛けに後手に回りながらも懸命に食い下がる粘り腰をみせた。