現在、Jリーグは開幕戦を終えて中断中だが、この連載では再開後のリーグ戦でさらなる活躍が期待される各クラブの注目選手を紹介していく。連載第11回は、川崎フロンターレの新加入選手、MF三笘薫を取り上げる。

上写真=三笘薫のドリブルは敵にとっては脅威であり、味方には頼もしい武器だ(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

優美華麗な一騎駆け

 ギャップにやられた――というのは何も色恋だけの話じゃない。サッカーを含め、プロの勝負師たちが生きる世界もそうだ。

 実際はそこまで大きくないのに大きく見える。速そうには見えないけれど、やたらと速い。大胆そうに見えて、やけに繊細という人たちがいる。実体との「誤差」が大きければ大きいほど、そこから生まれる効果もまた大きい。

 川崎フロンターレが売り出す大型新人も、そうした選手の一人だろう。三笘薫だ。プロ入り前から「大器」と騒がれ、今季の新人の中でも前評判はすこぶる高かった。その点だけに限れば、特段のギャップはない。

 ところが、ピッチに立つと、もう実体がつかめない。いい意味でギャップの連続だ。立ち姿からして、どこか異人さん風。すらりと伸びた両脚の尺の余り方はアフリカンを連想させ、甘いマスクに似合わずプレーは強気と来ている。とにかく、日本人離れした感じがするのだ。

 役回りは左の翼。いまの若い世代には右を含めた両翼に楽しみなタレントが数多くいるが、この三笘だけはかなり毛色が違って見える。けっこう大柄。総じて小兵ぞろいの2列目の選手では異色の存在だ。しかも、公称(178センチ)サイズよりも、はるかに大きく映る。

 最大の魅力は優美華麗な一騎駆け。そのさっそうとした姿は見る者をわくわくさせずにはおかない。しかも、ドリブルは外国産の高級車みたいなゴージャス系の加速感。初速はそれほどでもないが、気がつくと寄せ手が完全に置き去りにされている。守備者もまた、見立てと実体の「誤差」にやられてしまうのかもしれない。

 突破力にはよほど自信があるのだろう。サガン鳥栖とのJ1開幕戦で途中出場すると、いきなりファーストタッチから縦に仕掛けた。それも自陣からだ。使える空間が小さかったにも関わらず、敵陣へ突っ込んでいけるのだから話は早い。

 一見して大胆、豪快に見えるが、ボールを扱う所作はまるで歌舞伎の女形のような美しさ。パスを受けるときのちょっとした駆け引き、寄せ手の逆を取る繊細な動きにも味わいがある。おまけに縄張りが広い。長い両脚を巧みに使って、ボールを思いどおりに動かしてしまうのだ。

 それどころか、守り手に尻もちをつかせることすらある。ボールをさらしてからの深い切り返しがそうだ。急停止を可能にする軸足と体幹の強さに加えて、あのリーチの長さが効いている。開幕戦でも試合終了間際に切り返し一発で鳥栖の2人の守備者を地面に這わせた。