マリノスのJ1優勝は15年ぶりだが、横浜で優勝を決めたのは16年ぶり。前回2003年と今回の優勝決定試合には、GKをめぐる不思議な共通点があった。どちらも現場で取材した筆者が、前回と今回の思い出を振り返る。

上写真=セレモニーで笑顔を見せる中林(後列の黒ユニフォーム)。広島から期限付き移籍で加入して半年、優勝の瞬間をピッチ上で迎えた(写真◎佐藤博之)

Jリーグ史に残る大逆転劇

 12月7日のJ1リーグ最終節、横浜F・マリノス-FC東京の67分。横浜FMのGK朴一圭が退場処分を受け、控えGKの中林洋次が投入される様子を妙な既視感とともに見ていたら、ふと気が付いた。

 「あのときもマリノスのGKが退場になったんだ」

 あのときとは16年前、2003年11月29日。当時2ステージ制で争われていたJ1のセカンドステージ最終節で、横浜FMはジュビロ磐田と対戦した。会場は今回と同じ日産スタジアム(当時の名称は横浜国際総合競技場)。首位の磐田は勝てばステージ優勝で、ファーストステージ優勝の横浜FMとのチャンピオンシップへ進める。

 横浜FMは開始2分で先制されると、15分には、さらに苦しい状況に追い込まれた。GK榎本哲也が磐田FWグラウを突き飛ばし、一発退場となってしまったのだ。

グラウ(倒れている)への暴行で榎本が退場処分を受ける。まだ前半15分だった(写真◎J.LEAGUE)

 MF佐藤由紀彦との交代で投入され、榎本に代わってゴールマウスに立ったのは、下川健一。同年は4試合で控えに入っただけで、これが初出場だった。だが当時33歳のベテランはすぐ試合の流れに乗り、安定したプレーを続ける。後半に息を吹き返した横浜FMは50分に同点とすると、89分には逆転ゴールを奪い、1点ビハインドで数的不利の状況から、劇的な逆転勝ちを収めた。

 さらに磐田が負けたことで、勝てばステージ優勝の状況となった鹿島が、浦和相手に前半で2-0とリードしながら、76分と89分に失点して追い付かれ、痛恨のドロー。横浜FMがステージ優勝=両ステージ制覇の完全優勝を決めた一戦は、Jリーグ史に残る大逆転劇として語り継がれている。

緊急出場ながら、その後を無失点に抑えた下川。逆転優勝につながる貴重な働きを見せた(写真◎J.LEAGUE)

 下川はシーズン初出場どころか、01年から06年まで在籍した横浜FMで、これが唯一のリーグ戦出場。試合後は取材エリアで「最後だけ出て、優勝しちゃったよ!」と笑っていたのを覚えている。マリノスは1995年の初優勝を東京の(昔の)国立競技場で決めているので、横浜で優勝が決まるのは、これが初めてのことだった。