高校年代の選手やチームの物語を紡ぐ、不定期連載の第3回。今回は、無念の負傷離脱後、晴れ舞台での選手宣誓や『トルメンタ』でのベスト4進出など、激動の3週間を過ごした高川学園高の主将・奥野奨太の物語を綴る。

スペイン語で『嵐』

 12月29日、星稜高(石川)との1回戦。立ち上がりの8分、高川学園は右からのFKをMF林晴己がヘッドで合わせ、先制点を奪った。

 このゴールの直前、5人の選手が手をつないで輪になり、フォークダンスのように回ってからダッシュしてマークを振り切った。独創的な動きはSNS上の動画で拡散し、海外メディアにも注目されるなど話題を集めていく。この試合に4-2で勝利すると、31日の岡山学芸館高(岡山)との2回戦では、3人ずつ2つの輪を作る形から逆転ゴールを奪い、2-1で勝って3回戦進出を決めた。
 
 マークを振り切る動きは県予選準決勝で初めて披露し、そのときも先制点を奪っているが、名前は決まっていなかった。話題になっていることを関係者から聞いた江本孝監督は、軽い気持ちで「名前をつけた方がいいんじゃないか?」と提案。選手たちは『台風』などをモチーフに考え始めたが、なかなか良いアイディアが浮かばない。

 しばらくして3年生のDF江﨑透吾が、スペイン在住の外部スタッフで、今大会ベンチ入りしていた尾崎剛士コーチに「スペイン語で『嵐』は何と言うのですか?」と聞いた。尾崎コーチが教えてくれた『トルメンタ』の響きの良さに、選手たちは沸き立った。

県予選準決勝・聖光高戦で初めて披露した『トルメンタ』。まだ名前は決まっていなかった(写真◎石倉利英)

 高川学園サッカー部は数年前から、一人ひとりの所属意識を高め、責任感を持って行動する力を養うために『部署制度』を導入。練習内容の作成などを行なう『強化部』や、相手チームのスカウティングなどを担当する『分析部』、グラウンド脇などの農地で農作物を育てる『農業部』などがあり、農業部が育てた野菜を販売し、売り上げで分析部が使用する機器を購入するなど、各部署が連係して活動している。

 その中で『広報部』は、サッカー部の活動をSNSなどで発信する役割を担っている。2回戦が行なわれた31日の21時50分、広報部の選手が公式ツイッターに「強化部や選手たちが考えた『トルメンタ』で点を取り、1回戦・2回戦を突破することができました!」と投稿。これが各メディアで報じられ、より大きな話題を集めるようになった。

 1月2日の3回戦で仙台育英高(宮城)を1-0で下した高川学園は、4日の準々決勝で桐光学園高(神奈川)と対戦。スコアレスで迎えた55分、CKのチャンスで『トルメンタ』が飛び出した。選手が3人ずつ手をつなぎ、ニアサイドとファーサイドに2つの輪を置く。そこからMF西澤和哉が決勝ゴールを奪い、1-0で勝利を収めた。

 このプレーは、前日練習のときに奥野が発案したもの。当初の予定は、ニアサイドの3人がスペースを空け、そこにファーサイドの3人が飛び込んでいくというものだったが、ニアが空いていないと判断した西澤がファーに残ったところに、ボールがこぼれてきて得点となった。

 それでも、サポートメンバーとしてベンチの後方から見守っていた奥野は「あの拮抗した場面で使ってくれるとは思わなかったです。しかも決めてくれて、うれしかった」と振り返る。負傷したときに誓った「チームのために、少しでもできることをやっていく」との思いが、14年ぶりのベスト4進出へのゴールを生んだ。