高校年代の選手やチームの物語を紡ぐ、不定期連載の第2回。今回は、昨年10月に『絶対王者』に猛攻を浴びて大敗した鳥取県の高校が、練習を重ねて実現を目指す、ジャイアントキリングへの意気込みに迫った。

上写真=インターハイ予選に向けて練習を続けている米子松蔭高。勝ち上がれば準決勝で米子北高と対戦する(写真◎石倉利英)

光明を見いだした敗戦

 2020年10月24日、第99回全国高校サッカー選手権の鳥取県予選準々決勝。米子北高と米子松蔭高の一戦は、開始2分(40分ハーフ)に米子北が先制点を奪った。

 ガンバ大阪DF昌子源をはじめ、多くのJリーガーも輩出している米子北は、19年度まで選手権に10年連続、インターハイ(全国高校総体)は12年連続で出場している鳥取の『絶対王者』。すぐに均衡を破ったことで、観戦者の多くはその後のゴールラッシュを予想した。

 だが直後の3分、米子松蔭は前線へのロングパスをFW油井麟太朗がヘッドでフリック。ハーフウェーライン近くまで上がっていた米子北の最終ライン背後へボールを落とすと、スピードが武器のFW舟越統麻が入れ替わって抜け出した。ドリブルで独走し、1対1になったGKの頭上を狙ってシュート。クロスバーを越えていたかもしれないボールは、GKに触られたのが幸いし、勢いを失ってゴールに転がり込んだ。

 追い付かれた米子北は、すぐさま勝ち越しを狙って攻め込むが、米子松蔭は守備陣が粘りを発揮する。キャプテンのCB佐藤飛磨を中心に、何本も放たれるシュートを気迫のプレーで防ぎ、GK野津優希はファインセーブを連発。35分に2点目を奪われたものの、1-2でハーフタイムを迎えた。

 後半、米子北の攻撃が勢いを増す中で、米子松蔭は前半同様に体を張った守りで耐え、再び同点を狙う。しかし、後半の飲水タイム直前の56分に3点目を奪われると、米子北が温存していたレギュラーを送り込んできたこともあり、さらに3失点して1-6で敗れた。

 米子松蔭の井上桂監督は試合後、公式記録を見て驚いた。

「何本シュートを打たれたんだろう、と思って見たら、前半25本、後半28本で、計53本。ウチは得点になった前半の1本だけでした」

この試合の公式記録。シュート53本の猛攻を浴び、米子松蔭のシュートは1本だけだった

 力の差を見せつけられた米子松蔭だが、その後も勝ち抜いて11年連続16回目の出場を果たした米子北が、このときの予選で喫した失点は、この1点だけ。悔しさの中に、わずかながらも光明を見いだした敗戦となった。