第103回天皇杯の決勝が9日、国立競技場で行われた。今年、頂上決戦の舞台に上がったのは川崎フロンターレと柏レイソル。ともにリーグ戦では目標とする結果を得られなかったものの、天皇杯では特徴を出して勝ち上がった。試合はスコアレスで延長戦でも決着つかず、PK戦へもつれ込む大熱戦。10人が蹴り合う壮絶な展開となり、8−7で川崎Fが勝利。3年ぶり2度目の優勝を飾った。

上写真=3年ぶり2度目の優勝を飾った川崎フロンターレの選手たちが歓喜!(写真◎Getty Images)

■2023年12月9日 天皇杯決勝(@国立競技場/観衆62,837人)
川崎F 0-0(PK8-7)柏

ソンリョンが決め、3本止めた松本が失敗…

 決勝に至るまでの5試合で13得点と攻撃力を発揮して勝ち上がってきた川崎F。同じく5試合でわずか1失点と堅守を示してきた柏。頂上決戦と銘打たれた試合も、攻めの川崎Fと守りの柏という構図になるかと思われたが、序盤は柏の攻撃が目立った。サイドに起点を作って攻め込み、CKやFKの機会を得ながら川崎Fゴールに迫っていった。

 前半20分までに川崎Fがシュート1本、CKは0回だったのに対し、柏はシュート7本を放ち、CKは5回と攻め込んだ。数字に大きな違いが出た要因は、柏が川崎Fのビルドアップをうまく制限した点にあるだろう。最終ラインをしっかり押し上げ、高い位置からプレッシャーをかけて川崎Fのボールの循環を阻んだ。

 川崎Fもパスのレンジを変え、サイドチェンジを駆使するなど、柏のプレッシャーラインを越えるべく工夫を見せるが、柏も前から行く時と留まる時のメリハリを効かせて川崎Fの狙いを阻止していく。

 ただ柏は流れの中にあった前半30分までにネットを揺らすことができず。次第に川崎Fも柏のプレスに慣れて、スペースを見つけてパスを2本、3本とつなぐケースが増えていった。

 それでも前半は柏が前向きの守備を完遂。スコアレスで終え、後半を迎えた。すると今度は川崎Fが主導権を握る場面が増えていく。相手のプレッシャーラインをパスで越え、プレーする位置自体も高くなった。その結果、今度は柏が後手に回るケースが多くなり、ファウルを頻発。川崎FはたびたびFKの機会を得ることになった。だが、ゴールは生まれない。64分、逆に柏が押し込まれた状態からカウンターに出て、ビッグチャンスをつかんだ。

 自陣深い位置からM・サヴィオが前線に送ったボールに対し、川崎FのCB山村が処理をミス。さらにCB大南と入れ替わるように細谷が抜け出してGKと1対1の場面を迎えた。大南に押されながらも踏ん張って前進した細谷だったが、持ち出したボールが長くなる。結果、GKチョン・ソンリョンに先にキャッチされてしまう。柏にとっては絶好の得点チャンスだった。

 互いに選手を交代させながらも依然としてスコアレスのまま試合は80分を経過。激しい球際争いが繰り広げられる中、目まぐるしく攻守が入れ替わる展開が続く。85分を経過し、川崎Fが2枚替えを実施。大南に代えてジェジエウ、脇坂に代えてシミッチを投入し、陣形を4−3−3から4−2−3−1に変更した。トップ下に入った家長が前線を幅広く動いて局面で数的優位をつくり出し、その動きを柏の守備陣が捕まえきれず、終盤は川崎Fが攻め込むシーンが目立つようになる。

 アディショナルタイムに入ると、今度は柏が2枚替え。高嶺に代えて仙頭、土屋に代えて川口をピッチに送ってチームの活性化を図った。

 しかし、前後半を戦っても試合は決着せず。15分ハーフの延長戦に突入することになった。延長前半は川崎Fが押し気味の展開となるが、99分、柏がビッグチャンスを迎えた。川崎Fのクリアを片山がヘッドで前方に送ると、ボールは細谷のもとへ。そのまま抜け出して放ったシュートはGKにストップされたが、その流れから最後は仙頭がシュートを放った。だが、これも決まらず。

 まさしく一進一退。延長後半も互いに攻め合った。118分、川崎Fは右からのクロスをゴミスがヘディングシュート。しかし柏の守護神・松本が鋭い反応でストップし、こぼれ球も足でかき出して難を逃れた。

 最後の最後までゴールを目指したものの、120分でも決着がつかず。勝敗の行方はPK戦に委ねられることになった。

 先行は川崎F。後攻は柏。昨季の決勝に続くPK戦は壮絶な蹴り合いになった。川崎Fは1人目の家長から、瀬川(蹴り直しで成功)、山村、橘田が成功し、5人目のゴミスが決めれば勝ちという場面で柏のGK松本に止められてしまう。一方の柏はM・サヴィオ、細谷、戸嶋が成功し、仙頭が失敗。相手のミス(=ゴミスのミス)に救われ、武藤が決めて4−4となると、延長戦に突入する。

 川崎Fは6人目の登里が失敗するが、柏も片山が失敗。以降、川崎Fは遠野、山根、シミッチ、ソンリョンが成功。それに対して柏は山本、川口、立田が成功し、相手GKの成功を受けてキッカーを務めたGK松本が10人目のキッカーとなった。しかしゴール左を狙ったキックはソンリョンに読まれてしまう。瀬川の一度目のキックを含め、鋭い読みと反応でPK戦では合計3度ストップしてみせた松本だったが、最後は自らのキックを止められることになった。その瞬間、川崎Fの3年ぶり2度目の天皇杯優勝が決まった。

「自分たちを信じて戦えたことと、自分たちから崩れなかったこと」が大きかったと川崎Fの鬼木達監督。指揮官の言う通り、優勝は焦れることなく我慢強く戦った結果だろう。PK戦でも目まぐるしく展開が変わる中で、集中力を維持し、戦い抜いた。「タイトルを取らないとわからないことがある。取り続けたい」と、鬼木監督。進行中のACL、さらには来季に向けて力強く抱負を語った。