持たざる者のエスプリ
CLではまったくの伏兵だったモナコはいつの間にか、大会随一の刺客へ変貌を遂げた。準々決勝では、本命と目されていた『銀河系軍団』ことレアルを見事に退ける。第1レグは2-4と落としたが、第2レグで3-1と巻き返し、アウェーゴールの差でベスト4に名乗りを上げた。
さらに準決勝ではイングランドの金満クラブ、チェルシーを破って初のファイナルへ。周囲はおろか、当のデシャンですら、ここまでの快進撃は予想していなかったはずである。
もっとも、栄冠には手が届かなかった。決勝は0-3。モウリーニョ率いるポルト(ポルトガル)の軍門に下った。一方的なスコアによる完敗にはしかし、不運があった。開始23分にジュリが負傷交代。最大の武器を失い、肝心のラインブレイクが最後まで不発に終わる。
打つ手が面白いように決まっていたデシャンの勝運も、ここまでだった。さらに、CLでの快進撃と引き換えに、国内戦の優勝争いから脱落。勝負どころの終盤戦に失速し、リヨンとPSGの後塵を拝して3位に終わった。
限られた予算と戦力でやりくりしなければならないクラブ事情を考えれば、二兎を追うには限界がある。デシャンの手腕をもってしても、それは至難の業だった。
それでも「持たざる者」たちのジャイアントキリングは、観る者を魅了するに十分なインパクトをもたらした。手持ちの駒の強みをつなぎ合わせ、それをダイレクトプレーに落とし込んだチームには、現代サッカーのイロハを知り抜くデシャンのエスプリが凝縮されていたかのようだ。
あれから、ざっと17年。自陣に分厚い守備の網を張りめぐらせるブロック戦法(人海戦術)がもてはやされる時代もあったが、現在は再び、ハイライン・ハイプレスのアグレッシブなスタイルが復活しつつある。
ひたすら足元にパスをつなぐばかりではハイプレスの餌食になりかねない。むしろ、浅いフラットラインの背後に広がるスペースを狙ったパスが有効になる。もっとも、闇雲に蹴るだけではうまくいくはずもない。じゃあ、どんな仕掛けが必要か。
デシャンのモナコは、その手立てを教えてくれている。
著者プロフィール◎ほうじょう・さとし/1968年生まれ。Jリーグが始まった93年にサッカーマガジン編集部入り。日韓W杯時の日本代表担当で、2004年にワールドサッカーマガジン編集長、08年から週刊サッカーマガジン編集長となる。13年にフリーとなり、以来、メディアを問わずサッカージャナリストとして活躍中。