連載『サッカー世界遺産』では後世に残すべきチームや人を取り上げる。今回、世界遺産登録するのは、2000年代に見る者を魅了し、結果も出した白い巨人。ロス・ガラクティコス(銀河系軍団)と呼ばれたレアル・マドリードを取り上げる。

華やかな時代の終焉

豪華絢爛のメンバー。まさに「銀河系」だった(写真◎Getty Images)

 銀河系軍団のピークは、おそらくロナウドが加わった2002-2003シーズンだろう。

 バレンシアに譲った国内リーグの覇権を奪還している。しかし、CLで連覇を逃がし、デルボスケは退任に追い込まれた。準決勝でイタリアの名門ユベントスに敗れたのが響いた格好か。第1戦こそ2-1で物にしたが、第2戦を1-3で落とす、痛恨の逆転負けだった。

 最大の敗因は、ロナウドの負傷欠場ではない。マケレレがいなかったことだ。3点も失ったのは、そのためである。

 たとえロナウドが不在でも攻撃は何とかなる。だが、マケレレがいなければ、守備はどうにもならない。命綱を失ったことの悲劇、いや必然だったか。

 ロナウドが加わる1年前の決勝では4-1-3-2という超攻撃的なシステムで栄冠を手にしている。2トップにラウルとモリエンテスを据えて、2列目には左からソラーリ、ジダン、フィーゴというアタッカーを並べていた。

 中盤で守れる選手は、アンカーを担うマケレレだけだ。それでも伏兵レバークーゼン(ドイツ)の猛攻を浴びながら、何とか持ちこたえている。

 しかし、フロントは年俸アップを求めるマケレレの要求を拒み、あっさりと手放してしまう。これが、運の尽きだった。ベッカムの加入で、さらに攻撃へと針が振れた攻守のバランスはマケレレの放出によって、ついに制御不能のレベルまで達してしまう。仮にデルボスケが留任していたとしても、事態を好転させるのは難しかったのではないか。

 案の定、ベッカムが加入してからの3シーズン、レアルはただの一つもタイトルを取れずに終わっている。すでにフィーゴはクラブを離れ、シーズン終了後にジダンが引退。ロナウドもミランへ移籍するに至り、華やかな銀河系時代がついに終わりを迎えた。

 いくら衰退の理由が明らかでも安易に哲学を曲げないあたりが、いかにもレアルらしい。あれから20年近く経ったいまも、彼らのスタンスは当時のままだ。

 レアルは魅せてナンボ、スターがいてナンボ――。戦術? システム? 攻守のバランス? そんなものは二の次である。

 さすがにスクランブルでもない限り、4人のアタッカーを同時に使うケースは、ほぼ見かけなくなった。だが、3人までなら使う。たとえばベンゼマ、ベイル、C・ロナウド時代の『BBC』が、そうだった。

 彼らも守りに回れば、ガラクタ同然だが、それでも史上初のCL連覇を成し遂げた。いつの時代も際立つのは「人」である。

 スターこそ、最強の戦術――。それをデフォルメしたのが銀河系軍団だった。このマンガのようなチームが成立したのも、財力はもとより、世界随一の歴史(実績)と伝統を持つレアルだけに許された特権と言っていい。

著者プロフィール◎ほうじょう・さとし/1968年生まれ。Jリーグが始まった93年にサッカーマガジン編集部入り。日韓W杯時の日本代表担当で、2004年にワールドサッカーマガジン編集長、08年から週刊サッカーマガジン編集長となる。13年にフリーとなり、以来、メディアを問わずサッカージャーナリストとして活躍中。