あの頃があるから今がある――。この連載では大学時代に大きく成長し、プロ入りを果たした選手たちを取り上げる。第10回は、中央大で評価を高め、年代別代表にも選出されたDF大岩一貴だ。

上写真=中央大のキャプテンを務めた大岩(写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

文◎杉園昌之 写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子、J.LEAGUE

プロ御用達のジムで筋トレ

 ストッパーという表現がぴったりだった。相手のストライカーを溢れんばかりのパワーでことごとくシャットアウト。中央大の壁となった大岩一貴の強さは、とにかく目を引いた。

 その圧倒的なパワーは持って生まれたものもあるが、それだけでない。182センチのがっちりした体格を生かすための努力を重ねていたのだ。大学2年生のときにプロとの練習試合でパワーの違いを痛感し、一から鍛え直すことを決意したという。

「それ以来、プロにも負けない体作りをするようになりました。どんな相手にも当たられても負けず、吹っ飛ばすくらいになりたいと思っています」

 3年生からは当時Jリーグで活躍していた川口能活、那須大亮らを見ていた専門トレーナーのジムに週に1度通い、体をさらに鍛えた。

「特に太ももの前の筋力を強化しました。そこから徐々に体が安定してきたんです。ジャンプも高く飛べるようになり、当たりにも強くなりました」

 大岩が理想としたのは、中学校時代から目標にしていた松田直樹さん(故人)。所属していた名古屋FCのコーチに手本とするように言われてから、その存在を意識していた。闘志あふれるプレーだけでなく、破天荒の生き方などにも惹かれた。自伝本の『闘争人』を読み込み、雑誌のインタビューなどもチェックした。

「気持ちを前面に出してプレーするところもすごく好きでした。1対1は負けないですし、パスもしっかりつなぐ。ぶつかり合いでも相手を吹っ飛ばすパワーを持っていましたから」

 大岩がJリーグの舞台に立つ半年前である。大学4年生の8月、松田さんが急性心筋梗塞で逝去したときには、大きなショックを受けた。

「一度いいから同じピッチで戦ってみたかったです。試合の中だけでしか感じられないものがあるので」

 その夏以降、大岩はさらなる上のステージへ進むことになる。