連載『サッカー世界遺産』では後世に残すべきチームや人、試合を取り上げる。今回、世界遺産登録するのは、1970年代後期から80年代にかけてヨーロッパのクラブシーンを席巻した『最強リバプール』だ。

コピーされた先駆者

ダルグリッシュとともにリバプールで一時代を築いたラッシュ(左)。80年から87年まで所属し、ユベントスを経て、再び88年から96年までプレーした(写真◎Getty Images)

 最強リバプールを「参照」すれば、現代フットボールのエッセンスが見えてくる――。そう言っても、いいだろうか。

 そもそもスターぞろいの偉大なチームは、次世代にコピーされにくい。ハードルが高すぎるのだ。そこが、凡庸にして非凡なリバプールとの決定的な違いか。

 実は、日本サッカーとも無縁ではない。2002年日韓ワールドカップで日本を率いたフランス人のフィリップ・トルシエは、英国式フットボールのパス・アンド・ムーブに触発され、それを採り入れた指導者だった。

 例の「前後のパス交換」に3人目を絡めた攻撃を、戦術上の柱に据えている。縦(くさびの)パスに呼応し、MF陣が前へ飛び出すダイナミズムは、最強リバプールのコピーのようだった。

 日韓大会のヒーロー、稲本潤一がイングランド流の『ボックス・トゥ・ボックス』として躍動したのも、そうだ。トルシエのチームは「フラット3」ばかりが注目されたが、パス・アンド・ムーブもチームの根幹を成す重要なファクターだったと言っていい。

 面白いのは、現在のリバプールに黄金期の特徴が数多く含まれていることだ。ドイツの名将ユルゲン・クロップの志向する「全速のフットボール」は、当時のチームを現代風にアレンジした、進化形のように映る。

 縦へ急ぐ高速のパス・アンド・ムーブと守備のインテンシティーに加え、特定のスタープレーヤーに依存しない点もよく似ている。単なる偶然でしかないが、新たな黄金時代の始まりを暗示しているのか――。そんな妄想がふくらんでくる。

 いや、クロップのチームだけが似ているわけではない。現代の多くのチームが「リバプール的」なのだ。時代を超え、クラブの枠を超えて、最強レッズの遺伝子が、脈々と受け継がれている。

ほうじょう・さとし/1968年生まれ。Jリーグが始まった93年にサッカーマガジン編集部入り。日韓W杯時の日本代表担当で、2004年にワールドサッカーマガジン編集長、08年から週刊サッカーマガジン編集長となる。13年にフリーとなり、以来、メディアを問わずサッカージャナリストとして活躍中。