J1リーグは、残り4試合。首位・鹿島と同勝ち点で2位につけるFC東京は、ラグビーワールドカップ開催の影響で8月24日からアウェー8連戦を戦うことを余儀なくされてきた。だが、優勝争いの最終盤を迎える段になって、いよいよホーム・味の素スタジアムに戻る。11月23日の湘南戦、11月30日の浦和戦を前に、FC東京の生え抜きであり、FC東京でタイトルを取ると誓う橋本拳人にじっくり話を聞いた。言葉に端々から感じるのは、中心選手としての自覚、東京育ちとしての覚悟だった――。
 なお、今回のインタビューは連続企画の第1弾。毎週水曜日に4週にわたって『東京育ちの選手』の言葉を掲載していく予定だ。

上写真=優勝を狙うチームをけん引する橋本拳人(写真◎福地和男)

ナオさんの魂が宿っていたんでしょう

――このインタビューの取材前にあらためて橋本拳人選手のインスタグラムを見ていたのですが、驚きました。
橋本拳人 あのナオ(石川直宏/現FC東京・クラブコミュニケーター)さんの写真ですね? 僕もびっくりしました。同じ方が写真を撮ってくれていたようです。

【instagram】石川直宏の魂が宿った橋本拳人

――ともにFC東京の背番号18をつけ、うりふたつのポーズ。しかも、試合中のものでした。あんな偶然があるのか、というくらいです。幼い頃から石川さんを見てきたから、自然と似たのでしょうか。
橋本 うーん、ナオさんの魂が宿っていたのでしょう(笑)。FC東京を応援するようになり、一番初めに憧れた選手です。一人だけ輝きが違ったんです。躍動感があり、ドリブル、クロス、シュートなど目立つプレーが多かった。幼い頃の僕は攻撃的な選手だったので、自然と好きになりました。とにかく格好良かった。トップに昇格し、チームメイトとなり、身近で見るようになってからは人間的にも尊敬するようになりました。ファン・サポーターのみなさんとの接し方などを見ても、愛されるプレーヤーとはこういう選手なんだと思いました。いろいろと学びましたし、いまでもナオさんのような存在になりたいと思っています。
――FC東京のファン・サポーターに愛される存在とは、どのような選手だと思いますか。
橋本 ひたむきに泥臭く戦う選手だと思います。最後まであきらめない精神は、東京のアカデミーで培ってきました。どのような試合のどのような状況でも、終了の笛が鳴るまで絶対にあきらめてはいけないと。「最後の1秒まで足を止めずに立ち向かえ」とずっと言われてきました。走力トレーニングでも「最後の1秒まできっちり走れ」と叩き込まれてきたので。
――シーズン終盤の優勝争いでは、アカデミー時代から言われてきた「最後の1秒まであきらめない精神」が大事になってきますね。
橋本 気を抜かずに最後まで戦わなければいけません。この先は細かいところが、勝負を左右すると思います。チーム全員がこだわらないといけません。僕は中学生(FC東京U-15深川)の頃から長澤徹さん(現トップチームコーチ兼U-23監督)に「神は細部に宿る」と教わってきました。
――アカデミー育ちの渡辺剛選手も「テツ(長澤徹)さんの教えをいまでも心に留めている」と話していました。
橋本 僕もそうですね。自分を変えてくれた指導者の一人だと思っています。中学生時代の僕はケガが多くて試合にもあまり出場していなかったんです。それでも、僕に自信を持たせてくれました。テツさんの言葉に、何度も助けられました。
――現在、その長澤徹さんはコーチとして、チームにいますね。
橋本 昔と変わらず、いまでも心にぐっとくる言葉をかけてくれます。原点に立ち返ることができる感じです。試合になかなか勝てずに苦しんでいるときも「お前は苦しいときに一番戦える選手だから」と。僕が調子を崩していれば、すぐに分かるのでしょうね。ちょっとした立ち話のなかで「こういうときこそ、お前の一番得意なところでリズムを取り戻せよ」とさり気なく気を使ってくれます。ささいな言葉なのですが、胸に刺さるんです。