日本代表はEー1選手権で9年ぶり2度目の優勝を飾った。タイトルのかかった最終節の韓国戦では3-0で快勝。チームとしてアジアのライバルに対して地力を示した。一方で、カタールW杯メンバー入りへのアピールの場という観点からは、圧倒的な存在感を示した選手には乏しい印象も受けた。残り4カ月、各選手のさらなる成長が期待される。

上写真=ボランチとして高い能力を示した藤田譲瑠チマ(写真◎Getty Images)

文◎国吉好弘 

可能性を示した藤田譲瑠チマ

 E-1選手権は最終戦で韓国を3-0と下した日本の優勝で幕を閉じた。日本は初戦で横浜F・マリノスの選手を中心とした布陣で香港を6-0と下し、5日後の中国戦では初戦の2日前にJリーグの試合があったサンフレッチェ広島の選手を中心に、香港戦でプレーしなかったメンバーで臨んだが決め手を欠いて0-0で引き分け。

 そしてここまで2勝していた韓国との対戦は再び横浜FM中心のメンバーに戻し、この日プレーできなかった山根視来に代わって右サイドバックには小池龍太が入り、CB畠中槙之輔、ボランチに岩田智輝、藤田譲瑠チマ、右サイドに水沼宏太、トップ下に西村拓真と、スタメンのうち6人がマリノスの選手となった。他はGKに谷晃生(湘南ベルマーレ)、CB谷口彰吾(川崎フロンターレ)、LB佐々木翔(広島)、左サイドに相馬勇紀(名古屋グランパス)、CFに町野修斗(湘南)という11人だった。

 香港戦ではほとんどボールを支配して、相馬のFKからのゴールで早々に先制し終始圧倒した。プレーに内容も良かったとはいえ、相手との力関係から想定の範囲内のパフォーマンスとも言えた。ところが接戦が予想された韓国戦でも前線からの素早いプレスで相手に自由を与えず、奪ったボールを確実につないで攻め込んだ。前半でも何度かの決定機はあったが、決めきれず一筋縄ではいかない日韓戦の難しさかと思わせた。

 しかし、後半に入っても日本のペースは落ちずさらに勢いは増す。49分にボールを動かして右サイドのバイタルエリアで、フリーでボールを受けた藤田が判断良く左に振ると、走り込んだ相馬がヘッドで決めた。さらに56分に完全に崩した岩田のシュートは外れたが、64分に相馬のCKから佐々木がヘッドで決め、72分には藤田―西村―小池と流れるようにパスをつないで小池の折り返しを町野が押し込んで3-0。

 2021年3月に対戦して、このときも3-0で下し韓国にショックを与えたのに続き、2戦連続で3点差の勝利など史上初のこと。今年に入ってはAFC・U-23アジアカップでは日本のU-21代表が韓国のU-23代表を3-0、インターナショナルドリームカップではU-16代表がやはり3-0で勝ち、6月のデンソーカップでは日本大学選抜が5-0で韓国大学選抜を下しており、男子の各カテゴリーで韓国に完勝している。今回のE-1選手権の女子でも、なでしこジャパンが2-1で勝っており、初の男女優勝も果たした。

 ここ数年の日韓戦を見て感じるのは、まず球際の激しさで負けていないこと。この日もそうだったように競り合った場面で倒れるのはもっぱら韓国の選手だった。時にはファウルにもなるが、激しさという点で日本が勝れば技術的に優れる日本が圧倒することになる。パウロ・ベント監督の下、韓国もパスをつなぐサッカーを志向しているようだが、厳しい局面やスピードの速いパスを受ける際に韓国の選手はボールを弾ませてしまうシーンが多く、トラップミスも散見した。これに対し、日本の選手はほとんどが足元にピタリと止まる。したがってすぐに次のプレーに移ることができ、ボールを失わないことにつながり、結果、大きな差が生じていた。

 ロシア・ワールドカップを控えた2017年12月にやはり日本で行われたE-1選手権で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率いた日本は、同監督が口酸っぱく唱える「デュエル! デュエル!」の呪縛に取りつかれたように激しいプレーを試みた。しかし、そういうサッカーを得意とする韓国に1-4で完敗。そのことが監督の解任の引き金にもなったと言われる。今回の結果と内容はそのときとちょうど真逆で、日本の得意とするプレーをしようとした韓国が完敗することになった。パウロ・ベント監督の去就は分からないが……。

 今回のチームはともに海外組を招集できず、似た条件ながら海外でプレーする選手の数は日本の方がはるかに多く、日本がトップレベルでも50人以上いるのに対し、韓国は10数人に過ぎない。森保監督も試合前に「JリーグとKリーグの戦いでもある」と話していたが、その意味でも価値を示すことになったと言えるだろう。

 ワールドカップを目指す日本代表選手たちのアピールという観点からは、すでに定着した感のある谷口と山根を別にすれば、最も可能性を示したのが藤田ではないか。幅広く動き、1対1を制し、ボールを持っても慌てず、躊躇ないタテパスや大きな展開もこれまでのMFには見られなかったほどハイレベルでこなせることを証明した。4-3-3の中盤では遠藤航、守田英正、田中碧の3人が盤石で、一方でバックアップがやや薄いこともあり、ここへ食い込む可能性はある。

 今大会では相馬も積極的な仕掛け、決定力の高さを示し株を上げたことは間違いないものの、左ウイングのポジションは南野拓実と三笘薫が争っており、層としては十分と言えるかもしれない。割り込む余地があるかは微妙だ。相馬とともに3ゴールを挙げた町野もいまの代表にいない長身のCFという意味で希少な存在ながら、プレー全体のレベルはまだまだ既存の選手たちに及ばない部分もある。

 日韓のレベルの差が開いたことをチームとして示すことはできた。ただ、個人としてワールドカップメンバーに食い込むにはさらなるアピールが必要だろう。現状、決定している大会前の代表戦は9月の2試合のみだ。W杯は11月21日に開幕。残された時間は決して多くない。


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