カタール・ワールドカップアジア地区最終予選第4戦、10月12日のオーストラリア戦で、背水の陣の日本はホームで2-1の勝利をもぎ取った。急きょ採用された4-3-3システムの核になり、先制ゴールも奪ったのは田中碧。その思考をもっと知るために、試合後の言葉から紐解いてみる。

上写真=最終予選初先発で初ゴール。田中碧が日本を救った(写真◎小山真司)

■2021年10月12日 FIFAワールドカップ・アジア最終予選(@埼玉スタジアム/観衆14,437人)
日本 2-1 オーストラリア
得点:(日)田中碧、オウンゴール
   (オ)アイディン・フルスティッチ

立ち位置は「必然的に決まるんです」

 最終予選初先発。田中碧は「点を取ることだけを考えてプレーしていた」のだという。たった8分で南野拓実からのパスを受け、右足でていねいにゴール左に流し込み、代表初ゴールを決めて、あっけなく実現してしまった。

 もちろん、そこから追加点も狙っていた。そのための逆算として、「いい位置に立てば勝手にボールは回る」のポリシーがある。象徴的なのは、その手だ。ビルドアップのときに周囲の状況を踏まえながら、ボールホルダーに対して手でパスコースを指し示すのだ。右へ、左へ、前へ、後ろへ。その通りにボールが動くと、勝手に回っていく。

 では、そもそもどこに立つべきなのか。

「自分がどこに立てばいいのかは、(味方の)誰かがそこに立つから、それと相手を見て必然的に決まるんです」

 極端に言ってしまえば、自分以外の選手がいる場所の情報を集めておけば、考えるより感じることで見つかるというわけだ。自然に導かれる「立つべき場所」に進めばいい。その鋭い感受性がもたらす途切れのない連続性・連動性が、チームに軽やかな流れを生む。

 もちろん、この背水の陣で急きょ採用した、遠藤航、守田英正とミッドフィールドを組んだ4-3-3システムの効果だが、それはきっかけに過ぎない。

「緊張ないわけないですよね、この舞台で」とか、「試合が終わって引退していいやと思えるぐらい、後悔のない試合をしたかった」とか、「子どもに夢を与えたい」とか、心に響くエモーショナルな言葉を愛くるしい笑顔で自然に口にしたと思えば、すっと真剣になる。

「僕は全然手応えはないというか、もっともっと、田中碧がいるメリットを存分に出さなければいけないと思います。ミスもあったし、強度ももっともっとトップレベルへと上げていかなければいけない。
 その反面、初めての選手もいて練習できない中でのゲームなので、100点を求めすぎてもストレスを感じると思って、許容しながらやっていました」

 そのプレービジョンと同じく、心のバランスも絶妙なのだった。そうやって、自分にもチームにも流れるようなリズムをもたらしていく。「100パーセントを出さなければ通用しない相手」と覚悟して走り続け、最後は足をつりかけて、終了のホイッスルが鳴った途端にピッチに大の字に寝転んだ清々しさも大きな魅力だ。

 でも、これは始まりに過ぎない。

「もっと(ボールを)握りたいのが本音だし、守備でももっとはめたい」

 それがこのチームで可能であることを、田中と仲間たちが2-1の勝利で証明した。この夏からプレーするドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフでさらに磨きをかけて、11月のアウェー2連戦とその先へ、再びその「手」で淀みのない流れを日本代表にもたらしていく。


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