日本サッカーの出来事を筆者の記憶とともに紹介する月イチ・コラム「Back in the Football Days」。11月編は、Jリーグカップの思い出について。2019年の決勝が2004年のエピソードを思い起こさせた。

上写真=2004年のJリーグカップ優勝がFC東京にとって初タイトルだった(写真◎J.LEAGUE)

陳腐な言い方だが、感動した

 2019年のJリーグYBCルヴァンカップ決勝は、壮絶だった。

 決勝は11月の開催が多いこの大会だが、今年は10月26日が「決戦の土曜日」。北海道コンサドーレ札幌と川崎フロンターレが激突した一戦は、ご存知の通り次から次へと驚きの展開で息つく暇もなかった。

 10分に菅大輝が右からのクロスをリラックスしたステップワークから右足でたたいてゴールに突き刺し、札幌が先制したのがドラマの始まりだった。前半のアディショナルタイムに左CKから最後は阿部浩之が押し込んで川崎Fが同点としてハーフタイムへ。後半途中に交代でピッチに入っていた小林悠が、するりと裏に抜けてゴールに蹴り込んだのが88分のことで、川崎Fが土壇場でついに逆転して頂点ににじり寄った。

 ところが、札幌は黙ってはいない。後半のアディショナルタイム、ラストプレーと思われた右CKを深井一希が頭で合わせて同点に。勝負を延長戦に持ち込んだ。この勢いを味方につけたかのように、99分には福森晃斗が自慢の左足でFKを直接決めて逆転に成功、今度は札幌が王手をかけた。

 このFKを与えたファウルが、VAR判定で川崎Fの谷口彰悟による決定機阻止とされて退場処分が下されており、川崎Fは1人少ないまま攻めるしかなくなった。万事休すと思いきや、109分、左CKがファーに飛び、山村和也の折り返しを再び小林が押し込んでまたもや同点に追いつく。

 こうして、120分の激闘は2?2でタイムアップ。丁々発止の戦いは優劣つけ難く、ルールを捻じ曲げてでも「両者優勝」にしたいと思わせるものだったが、カップウィナーはPK戦によって決めなければならない。先行は川崎F。

 小林悠 成功。1-0。
 アンデルソン・ロペス 成功。1-1。
 山村和也 成功。2-1。
 鈴木武蔵 成功。2-2。
 中村憲剛 成功。3-2。
 深井一希 成功。3-3。
 車屋紳太郎 バー直撃でノーゴール。3-3。
 ルーカス・フェルナンデス 成功。3-4。
 家長昭博 成功。4-4。
 石川直樹 決めれば優勝のキックはGK新井章太がストップ。4-4。
 長谷川竜也 成功。5-4。
 進藤亮佑 GK新井がまたもストップ。5-4。

 こうして、川崎Fが5度目の決勝で、やっとのことで初の優勝カップを手に入れた。

 陳腐な言い方だけれども、感動した。勝った川崎Fも負けた札幌もどちらも研ぎ澄まされた見事なプレーの連続だった。人生でもう何百回目か分からないけれど、またもやサッカーは素晴らしいと心から思った。同じように感じた人がたくさんいて、その思いが伸びやかにあちこちに広まっていくさまを眺めて、また感動した。

 ところで、歴代のJリーグカップ(ヤマザキナビスコカップ、YBCルヴァンカップ)決勝でPK戦によって優勝チームが決まったカードは過去に6度ある。そのうちの一つが、2004年11月3日に国立霞ヶ丘競技場で行なわれたFC東京対浦和レッズだ。

 こちらは0-0のまま120分を終え、PK戦4-2でFC東京が勝利の雄叫びを上げた。FC東京にとっては初めてのタイトル獲得だ。

 このファイナルも息をのむシーンの連続で、2019年と同じように感動の決戦だった。にもかかわらず、当時のサッカーマガジンはこの素晴らしい歓喜を表紙にほんの小さくしか掲載できなかった。

愛あるユーモア、第2表紙

 このときの編集長だった私としては、せっかくの初優勝を大々的に報じることができず、15年たったいまでもFC東京への心残りが消えないのだが、理由はあった。

 この「2004年11月23日号」(11月9日発売)は、サッカーマガジンの通算1000号だったのだ。手前味噌だったかもしれないが、日本で最初に刊行されたサッカーの専門誌が長い歴史をしっかりとつないで到達した一冊で、それを記念する企画が満載、表紙のテーマも当然そのことになった。

 この1000号については、「Jリーグ百年構想」のメッセンジャーであるMr.ピッチがわざわざ編集部までお祝いに駆けつけてくれたというほっこりするエピソードもあって、その意味でも思い出深い(想像以上にでかくてビビった)。もちろん、FC東京の関係者の方も1000号への祝辞を伝えてくれるとともに、「でも、表紙が…」という軽やかなツッコミも入って、その愛あるユーモアに恐縮するしかなかったのを覚えている。

 とはいえ、編集者の矜持として、表紙にできないからといってそのまま引き下がるような真似はしないのが、当時の編集部の良き風潮だった。FC東京担当として激戦を追い続けてきた生きの良い若手スタッフが、どうやってこの偉業を誌面に展開しようかと考えて、見たこともないような真顔で私のデスクにやってきて、進言したのだ。

「優勝したのに、本当に表紙でメインを張れないんですよね。分かりました。だったら、第2表紙、作らせてください」

 彼が言うには、表紙で小さくしか扱ってもらえないのなら、決戦を報じるカラーページの最初のページを表紙と同じデザインにして、まるごとFC東京の初優勝を押し出したい、ということだった。なるほど、とても素敵なアイディアだった。

 本物の表紙では、さまざまな特集を一斉にアピールするわけで、特に記念企画をこれでもかと仕込んだこの号は総花的になる。でも「第2表紙」なら写真でも文字でも、FC東京の優勝を存分に表現できる。デザインの観点からすれば、実は本物以上に見栄えのするものになった。

 選手や関係者が揃って笑顔で拳を突き上げる優勝の記念写真が喜びを伝えている。背景には、国立競技場のビジョンに映る「CUP WINNERS! F.C.TOKYO」の文字が見える。

『TOKYOに凱歌』のメインコピー。『FC東京が初めてのタイトル獲得』のサブタイトル。

「クラブ全員の力だ」と原博実監督、FC東京は笑顔と涙の初タイトル獲得!というあおり文句や「初優勝記念独占インタビュー/今野泰幸~優勝がこんなに気持ちいいならこれから何度でも優勝したい」と決勝のMVP的存在を取り上げた特別企画の文字が踊っている。

 そして内容についても、歴史的なゲームをカラーページで特集するのはもちろん、番記者の寄稿によるストーリーも掲載したし、自慢の連載陣の武智幸徳さん(日本経済新聞)やえのきどいちろうさん(コラムニスト)も、それぞれの視点から鮮やかにFC東京初優勝を綴ってくれて、総合的に充実したリポートになったのだった。

 というわけで、1000号記念企画として巻頭から一気にたたみかけた、ジーコ(日本代表監督)と岡田武史(横浜FM監督)の対談、オランダでの小野伸二(フェイエノールト)のインタビュー、神戸でのカズ(ヴィッセル神戸)のインタビューでインタビュアーと構成を担当させてもらって、しかもFC東京の初タイトルを「表紙以上の表紙」で報じることができたこの一冊は、私にとってはかけがえのないものの一つとなった。

 保管してある当時の雑誌を久々に引っ張り出してみた。あちこちが折れたり破れかかったりしているのは、当時何度も見返したからだろうか。もうこれ以上、破損しないように大事にしまっておかなきゃな。

文◎平澤大輔(元週刊サッカーマガジン編集長) 写真◎J.LEAGUE、BBM

画像: これが本文中に登場する第2表紙

これが本文中に登場する第2表紙

画像: こちらが記念すべき1000号の表紙

こちらが記念すべき1000号の表紙

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