最終決戦が目前に迫った。今週末(26日)に開催されるルヴァンカップのファイナルだ。勝つのは川崎フロンターレか、北海道コンサドーレ札幌か。互いに大会初優勝を賭けた大一番だけに激戦必至。過去の大会を振り返っても忘れがたい珠玉のドラマがいくつも演じられてきた。その中から5つの名勝負を選りすぐったら、どうなるか。以下、独断と偏見による5つのドラマを紹介してみたい。

上写真=96年9月25日、国立競技場で行なわれた清水対V川崎の決勝で得点を決めた清水の長谷川健太(写真◎J.LEAGUE)

1:壮絶な復讐劇~1996年の決勝

■1996年9月25日 @国立競技場
清水エスパルス3-3(PK5-4)ヴェルディ川崎
得点者:(清)長谷川健太、オリバ、サントス (V)OG、アルジェウ、ビスマルク

画像: 3-3の激闘は清水がPK戦の末にV川崎を下した(写真◎J.LEAGUE)

3-3の激闘は清水がPK戦の末にV川崎を下した(写真◎J.LEAGUE)

壮絶な復讐劇だった。

清水が過去二度も決勝で敗れている因縁の相手を執念で退け、初タイトルを手にする。4連覇を狙うV川崎を、簡単に勝たせてはくれなかった。

2点のリードを奪いながら土壇場で追いつかれ、大会初の延長へ。サントスのゴールで再び突き放したものの、ビスマルクの一撃を浴びて3-3。やられたらやり返す激闘の決着はついにPK戦に委ねられた。

2人目のマグロンが失敗したV川崎に対し、清水は5人全員が成功。敗れ続けてきた者たちの意地が王者の誇りを砕き、天運をたぐり寄せた。MVPは攻守に奮闘した清水の鉄人サントス。

また清水の最終ラインを支えた齊藤俊秀がジュビロ磐田の名波浩とともに、この年から新設されたニューヒーロー賞を受賞している。

2:起死回生のドラマ~1999年決勝

■1999年11月3日 @国立競技場
柏レイソル2-2(PK5-4)鹿島アントラーズ
得点:(柏)大野敏隆、渡辺毅 (鹿)ビスマルク、阿部敏之

画像: 土壇場で追いつき、聖杯を掲げた柏。当時のチームを率いていたのは西野朗氏(写真◎J.LEAGUE)

土壇場で追いつき、聖杯を掲げた柏。当時のチームを率いていたのは西野朗氏(写真◎J.LEAGUE)

 起死回生のドラマだった。敗色濃厚の柏が土壇場で鮮やかによみがえる。

 1-2で迎えた後半のアディショナルタイム。パワープレーに望みを託し、最前線に上がっていたセンターバックの渡辺毅が北嶋秀明の落としをボレーで叩き、優勝目前の鹿島を延長に引きずり込んだ。巧者鹿島の誤算は87分に2度目の警告を受けた重鎮ビスマルクの退場処分。これが柏の追い風となり、サドンデスまで突入したPK戦でも風向きは変わらなかった。

 明暗を分けたのは6人目だ。鹿島は小笠原満男のキックを吉田宗弘に阻まれ、柏は荻村滋則が成功。沈まぬ太陽と化した柏にクラブ史上初の栄冠が転がり込んだ。MVPはもちろん、起死回生の一撃を放った渡辺。DFの受賞は初めてのことだった。

3:固い絆の物語~2004年決勝

■2004年11月3日 @国立競技場
FC東京0-0(PK4-2)浦和レッズ

画像: 左からFC東京のケリー、ルーカス、ジャーン(写真◎J.LEAGUE)

左からFC東京のケリー、ルーカス、ジャーン(写真◎J.LEAGUE)

 みんなは1人のために――。FC東京の固い絆が紡いだ物語。

 始まりは29分だ。守りの要ジャーンが2回目の警告を受けて退場処分に。10人での戦いを強いられ、連覇を狙う浦和の猛攻にさらされることになった。

 ハーフタイム。涙ながらに謝罪する闘将ジャーンの姿に仲間たちが奮い立つ。そこから延長を含め、実に1時間以上も劣勢を耐え抜き、PK戦まで持ち込んだ。

 ここで守護神の土肥洋一が殊勲のPKストップ。浦和の4人目、山田暢久のキックを阻み、5人目の加地亮が決めて勝利をたぐり寄せた。MVPを受賞した土肥は「ジャーンのために――という気持ちだった」と全員の思いを代弁。

 なお、J2から出発したクラブのタイトル奪取はこの年のFC東京が最初である。

4:史上に残る撃ち合い~2010年決勝

■2010年11月3日 @国立競技場
 ジュビロ磐田5-3(延長)サンフレッチェ広島
 得点:(磐)船谷圭介、前田遼一2、菅沼実、山崎亮平 (広)李忠成、山岸智、槙野智章

画像: 前田(写真左)の2ゴールなどで磐田が広島を下して優勝

前田(写真左)の2ゴールなどで磐田が広島を下して優勝

 大会史上随一の撃ち合いだった。両軍合わせて計8ゴールは決勝での最多記録。しかも延長だけで4得点が生まれている。

 引き金は後半アディショナルタイムの同点ゴールだ。磐田の前田遼一がCKからのこぼれ球をプッシュして2-2。これで勢いに乗ると、延長前半に連続ゴールを決めて一気に失意の広島を突き放す。

 いや、広島も粘った。槙野智章が直接FKをねじ込んで1点差に詰め寄る。だが、延長後半に前田がトドメの一撃。自らボックス内に斬り込み、GK西川周作の頭上を鮮やかに破ってみせる。まさにエースの面目躍如。文句なしのMVPに選出された。

 磐田の優勝は実に12年ぶり。一方の広島は若いタレントたちが躍動したものの、悲願の初優勝は持ち越しとなった。

5:絵に描いたような逆転劇~2014年決勝

■2014年11月8日 @埼玉スタジアム2002
ガンバ大阪3-2サンフレッチェ広島
得点:(G)パトリック2、大森晃太郎 (広)佐藤寿人2

画像: パトリックの決定力が光り、G大阪がこのシーズンの一冠目を手にした(写真◎J.LEAGUE)

パトリックの決定力が光り、G大阪がこのシーズンの一冠目を手にした(写真◎J.LEAGUE)

 G大阪の絵に描いたような逆転劇だった。先行したのは広島だ。エースの佐藤寿人が連続ゴール。たちまち2点のリードを奪った。

 劣勢に立たされたG大阪はしかし、38分に大砲パトリックが追撃のヘッド。これが逆襲の号砲となった。後半は完全にG大阪ペース。54分に再びパトリックがヘッドで殊勲の同点ゴールを決めると、71分に交代出場の大森晃太郎がこぼれ球を押し込んで待望の3点目。猛攻に次ぐ猛攻で勝利への執念を実らせた。

「前半のうちに1点を返せたのが大きかった」とは1点目をアシストした遠藤保仁の弁。決勝で2点差をひっくり返したのは後にも先にも、この年のG大阪だけだ。なお、G大阪はこの優勝を皮切りにリーグ、天皇杯をも制して三冠を達成している。

聖杯を掲げるのは川崎Fか札幌か?

 そこで今年の決戦に話を戻そう。川崎Fは過去4度も決勝で敗れてきた。1996年の清水を越える「五度目の正直」なるか。ちなみに4回の決勝ではいずれもノーゴールに終わっている。形はどうあれ、まずは1点。すべてはそこからか。一方の札幌は勝てばクラブ史上初のタイトルを手にする。指揮官の、ミハイロ(ミシャ)・ペトロヴィッチは広島で一度、浦和で二度決勝に挑み、2016年に浦和を優勝へ導いている。ケガ人が続出し、台所事情は苦しいが、攻めてナンボの信条を貫くはずだ。大会最多の8ゴールが生まれた2010年の決勝で広島を率いていたのも、この人だった。

 札幌が勝てば一昨年のセレッソ大阪、昨年の湘南ベルマーレに続く「無冠返上劇」となる。データを見ると、決勝で一方が無得点に終わる(0-0も含む)確率は69・2%。しかし、今年は攻撃力を看板にするチーム同士の決戦だ。

 大会史上に残る壮絶な撃ち合いとなっても不思議はないが、果たしてどうなるか……。

選者◎北條 聡 写真◎J.LEAGUE

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